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百日咳の治療方法と治療後の感染力からみた学校の登校基準に関する検証

百日咳は百日咳菌(Bordetella pertussis)による急性呼吸器感染症であり、近年成人を含む幅広い年齢層で感染が増加している[1][2]。今回は、百日咳の治療方法と治療後の感染力の変化を踏まえ、現行の学校保健安全法に基づく登校基準の妥当性について科学的根拠に基づいて検証する。

百日咳の治療方法
第一選択薬:マクロライド系抗菌薬
百日咳の治療において、マクロライド系抗菌薬が第一選択として用いられている[3][4][5]。具体的には以下の薬剤が推奨される:

  • アジスロマイシン:成人では初日500mg、第2-5日目250mg/日の5日間投与[6]
  • クラリスロマイシン:成人では1g/日を7日間投与[5][6]
  • エリスロマイシン:生後6か月以上の患者に使用、14日間投与[5][6]
治療効果のタイミング依存性
治療効果は投与開始時期に大きく依存する:
  • カタル期(発症~2週間):抗菌薬治療が症状軽減に有効である[7][8]
  • 痙咳期(発症2-3週間後):症状に対する効果は限定的で、主に感染力の抑制が目的となる[9][10]
  • 回復期:抗菌薬投与の必要性は低い[6]
発症から2-3週間以内のカタル期に適切な抗菌薬を処方すれば、症状を軽減し周囲への感染力を下げることが可能である[10]
治療後の感染力の変化
抗菌薬投与による感染力の抑制
適切な抗菌薬治療により、感染力は著明に低下する:
  • 投与開始から5日後:菌の分離はほぼ陰性となる[5][11]
  • 投与開始から5-7日:感染力はなくなる[12][13]
  • 投与開始6日目以降:百日咳菌の感染力は下がる[10]
未治療時の感染持続期間
抗菌薬治療を受けない場合:
  • 発症後3週間:感染力が持続する[14][15]
  • カタル期から第4週まで:未治療での感染期間とされる[13]
感染力が最も強い時期
百日咳の感染力は病期により異なる:
  • カタル期(約2週間):最も感染力が強く、風邪様症状のため診断が困難[16][17]
  • 痙咳期:特徴的症状が出現するが、感染力は相対的に低下[18][17]
現行の学校登校基準
学校保健安全法による規定
百日咳は学校保健安全法第二種感染症に指定され、出席停止期間の基準が以下のように定められている[19][20][21]
「特有の咳が消失するまで、または5日間の適正な抗菌薬による治療が終了するまで」
登校基準の科学的根拠
この基準は以下の科学的根拠に基づいている:
  1. 抗菌薬治療開始後5日で菌排出がほぼ消失[5][11]
  2. 適切な治療により5-7日で感染力が消失[12][13]
  3. 未治療の場合は3週間感染力が持続[14][15]
登校基準の妥当性検証
治療例における基準の適切性
抗菌薬治療を受けた場合:
  • 科学的根拠:治療開始5日後に菌排出がほぼ陰性化し、感染力が消失する[5][11][10]
  • 基準の妥当性:5日間の治療終了後の登校許可は感染防止の観点から適切である
  • 実用性:明確な期間設定により、学校現場での判断が容易
未治療例における基準の課題
特有の咳消失を基準とする場合:
  • 診断の困難性:「特有の咳」の判定は主観的で、医師によって判断が分かれる可能性がある[19]
  • 感染リスク:未治療の場合3週間感染力が持続するため、咳消失のみでは感染防止が不十分な可能性
  • 長期化のリスク:百日咳の咳は数か月続く場合があり、過度に長期の出席停止につながる可能性[22][18]
国際的動向との比較
諸外国でも類似の基準が採用されており、5日間の適切な抗菌薬治療後の復帰という方針は国際的にも支持されている[16][23]
提言と改善案
現行基準の強化点
  1. 診断の迅速化:PCR検査の普及により早期診断・早期治療を促進[24][2]
  2. 治療遵守の確認:処方された抗菌薬の完全な服薬を確認する仕組みの構築[9]
  3. 医師の判断基準統一:「特有の咳」の客観的判定基準の明確化
感染拡大防止の追加対策
  1. 濃厚接触者への対応:家族内感染者がいる場合の予防的措置の検討[16][15]
  2. 復帰時の確認:医師による登校許可証の活用[20]
  3. 継続的な咳エチケット:復帰後も一定期間のマスク着用推奨
結論
現行の学校保健安全法による百日咳の登校基準「5日間の適正な抗菌薬による治療が終了するまで」は、科学的根拠に基づいた妥当な基準である[5][11][10]。抗菌薬治療により5日後に感染力がほぼ消失するという医学的エビデンスと一致しており、感染拡大防止と教育機会の確保のバランスが適切に取られている。
ただし、「特有の咳が消失するまで」という基準については、判定の客観性や未治療例での感染リスクの観点から、より明確な指針の策定が望ましい。早期診断・早期治療の推進と併せて、学校現場における感染症対策の実効性向上が期待される[19][24][15]

  1. https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/pertussis-adult/
  2. https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/pertussis/ 
  3. https://mymc.jp/clinicblog/211939/
  4. https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-disease/whooping-cough-symptoms-treatment-adult/
  5. https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/477-pertussis.html      
  6. http://www.theidaten.jp/wp_new/20191024-76/   
  7. https://shinopo.localinfo.jp/posts/56643305
  8. https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/yb82ix-7pylp
  9. https://kids-doctor.jp/magazine/zmhfadqd5o 
  10. https://www.jpca-infection.com/column-detail.php?nid=95    
  11. https://kokyukinaika-tokyo.com/939/   
  12. https://www.taisho-kenko.com/column/33/ 
  13. https://www.city.bunkyo.lg.jp/b028/p002603.html  
  14. https://uetani-clinic.com/blog/百日咳菌感染 
  15. https://www.city.omaezaki.shizuoka.jp/soshiki/kenkodukuri/chui/hyakunichi.html   
  16. https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=172  
  17. https://kidowaki-clinic.jp/blog/?p=1341 
  18. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/whooping_cough.html 
  19. https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/v835gyqy07fj  
  20. https://kids-doctor.jp/magazine/ykzmozfsko 
  21. https://www.kakogawa.hyogo.med.or.jp/memo/item5027
  22. https://wada-cl.net/medical/百日咳/
  23. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/010/index.html
  24. https://www.8ken-familyclinic.com/whooping-cough 


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