小児の手掌多汗症について

定義と概要
小児の手掌多汗症（しゅしょうたかんしょう）は、手のひらに日常生活で支障をきたすほど過剰な汗をかく症状を指します^[1][2]。この疾患は成人だけのものではなく、早い場合には3歳頃から発症することがあり、幼少期から思春期に多く見られます^[1][3]。
手掌多汗症の有病率は日本人の約5%とされており、小中学校の40人のクラスで平均して2人の児童がこの症状で悩んでいると推定されています^[4]。しかし、多くの子どもが誰にも言えずに隠しているケースが多いのが現状です^[4]。
原因とメカニズム
生理学的メカニズム
手掌多汗症は、手に分布する交感神経の過剰な活発化が関わっていると考えられています^[4]。交感神経は手の汗腺に作用して汗を出させる神経で、通常は緊張した時や暑いと感じた時に活発化しますが、手掌多汗症では常に活発化しているため大量の汗をかいてしまいます^[4]。
汗の分泌をコントロールしている交感神経の過剰な作用によるもので、汗腺自体に異常はありません^[1]。なぜ手に分布する交感神経だけが活発化するのかは明確にはわかっていません^[4]。
遺伝的要因
手掌多汗症そのものが遺伝することはないとされていますが、手の交感神経が活発であるという体質が遺伝し、発症リスクが高くなると考えられています^[5]。海外の研究では、多汗症患者の60-65%に家族内で同様の症状を持つ人がいたとの報告があります^[3]。
環境・心理的要因
環境や体質、性格などが似ていると多汗症を発症しやすくなります^[1]。交感神経は活動している際に働く自律神経であるため、緊張や不安などストレスの影響も受けやすく、ストレスをきっかけに多汗の症状が強くなることがよくあります^[1]。
症状と特徴
年齢別発症傾向
研究によると、小児の手掌多汗症は以下のような年齢分布を示します^[6]：

• 6-8歳：27.03%（女児90%、男児10%）
• 9-11歳：38.73%（女児58.14%、男児41.86%）
• 12-14歳：27.03%（女児50%、男児50%）
• 15-17歳：7.21%（全て男児）

この統計から、都市部の6-11歳の女児に多く見られる傾向があることがわかります^[6]。
臨床症状
手掌多汗症の症状には以下のような特徴があります^[2][3]：

• 週1回以上、両手に日常生活に支障をきたすほど多くの汗をかく
• 睡眠中は汗をかかない
• 昼間（10時-18時）に汗が多い
• 重症例では滴り落ちるほどの発汗がみられる
• 手足は常に湿って指先が冷たく紫色のような色調を呈することがある

日常生活への影響
小児の手掌多汗症は、以下のような形で日常生活に支障をきたします^[1][7][8]：
学習面での影響

• お絵描きの画用紙が湿ってよれよれになる
• 文字や絵がにじむ、紙が破れる
• 試験用紙が濡れて消しゴムが使えない

社会的活動への影響

• 人と手をつなぐのを嫌がる（フォークダンスができない）
• 手袋を敬遠する（中が濡れて気持ちが悪い）
• 手を滑らせて食器やタブレット、コントローラーなどをうまく扱えない

身体的症状

• 家具やピアノの鍵盤などに手指の跡が付く
• 手のひらの湿疹、皮むけ
• 季節の変わり目に手の皮がむけやすくなる
• 手指にあせも（汗疱）ができて痒みを生じる

診断基準
原発性手掌多汗症の診断基準
原発性手掌多汗症は、症状が6ヶ月以上続き、以下の6項目のうち2項目以上が当てはまる場合に診断されます^[9][2][8]：

1. 初回発症が25歳以下
2. 左右対称に発汗がみられる
3. 睡眠中は発汗が止まっている
4. 週に1回以上多汗のエピソードがある
5. 家族に同じ症状の人がいる
6. 多汗のために日常生活に支障をきたしている

重症度評価
重症度の判定には、Hyperhidrosis Disease Severity Scale（HDSS）が用いられます^[10]：

1. まったく気付かない、邪魔にならない
2. 我慢できる、たまに邪魔になる
3. どうにか耐えられる、しばしば邪魔になる
4. 耐えがたい、いつも邪魔になる

このうち3、4を重症の指標としており、保険診療を受けることができます^[7][10]。
治療法
外用薬治療
アポハイドローション®

• 適応年齢：12歳以上^[9][3]
• 使用方法：寝る前に両手のひらに5プッシュして就寝^[3]
• 保険適応の手掌多汗症専用治療薬^[9]
• 抗コリン作用により発汗を抑制^[8]

塩化アルミニウム外用薬

• 明確な年齢制限はないが、皮膚刺激が強いため低年齢児には慎重使用^[9]
• 自費診療となる^[9]
• 汗腺を塞ぐことで発汗を抑制^[11]

イオントフォレーシス
イオントフォレーシスは、手のひらを水に浸し、弱い電流を流す治療法です^[12][13]：
治療の特徴

• 保険適応（3割負担で1回660円）^[12][13]
• 小児から成人まで年齢に関係なく治療可能^[12]
• 治療時間：1回15分程度^[12]
• 頻度：週1-2回の初期治療後、維持療法を継続^[12]

効果と副作用

• 5-10回の治療で効果判定^[12]
• 副作用：ピリピリした刺激感、軽度の発赤^[13]
• 代償性多汗などの大きな副作用はない^[12]

その他の治療法
ボツリヌス毒素注射

• 交感神経を麻痺させて発汗を抑制^[11][5]
• 効果持続期間：数ヶ月から半年^[5]
• 保険適用外^[11]

手術療法

• 発汗に関わる神経節の切除または焼灼^[11]
• 15歳以上が原則（症状によっては早期手術を検討）^[1]
• 保険適用外^[11]

心理社会的影響と対応
心理的影響
小児の手掌多汗症は、成長とともにさまざまな気兼ねや支障が現れ、性格にも大きな影響を及ぼすことがあります^[1]。思春期の子どもたちは大人が思っている以上に汗のことで悩み、困っていますが、どう対処してよいのかわからないのが現状です^[7]。
多汗症で悩んで医療機関を受診した人の割合はわずか4.6%しかいなかったという調査結果もあり、多くの子どもが一人で悩んでいます^[7]。
家族・学校での対応
コンプレックスにつながりかねない症状は、できるだけ早く気付いてしっかりフォローしてあげることで、子どもの気持ちも大きく変わります^[1]。家庭や学校の先生が多汗で困っていそうだと感じたら、「皮膚科で相談してみようか」と声をかけることが重要です^[7]。
予後と管理
手掌多汗症は放置しても健康上の問題になることはありませんが、日常生活をする上で不自由を感じる子どもは意外に多いのが現状です^[4]。早めに気付いて適切な処置や治療、対応を行うことで心身ともに健やかな成長へと導くことができます^[1]。
現在では皮膚科で治療できる時代になっており、保険診療で処方できる塗り薬が複数あります^[7]。症状に気付いたら、まずは皮膚科を受診して実情を話すことで、医師が適切な薬を処方してくれます^[1][7]。
小児の手掌多汗症は決して珍しい疾患ではなく、適切な診断と治療により症状の改善が期待できるため、早期の医療機関受診が推奨されます。
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1. https://www.kagaya-clinic.jp/kagaya-tease.com/child/          
2. https://srgkc17.com/palmar-hyperhidrosis/  
3. https://aquakids.jp/blog/多汗症💦について    
4. https://www.kagaya-clinic.jp/kagaya-tease.com/palmar-hyperhidrosis/     
5. https://www.juncl.net/sweat-on-palms/  
6. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11122639/ 
7. https://www.med.or.jp/people/plaza/plus/vol1/      
8. https://www.okukodo.jp/other/sonotagairai-41901/index.html  
9. https://morino-kodomo.com/blog/こどもの手汗・わき汗が止まらない！？多汗症の/    
10. https://www.dermatol.or.jp/qa/qa32/q06.html 
11. https://www.hisamitsu.co.jp/tenoase/cure/    
12. https://wakako-clinic.jp/service/イオントフォレーシス治療　〜多汗症〜/      
13. https://urata-hifuka.com/hyperhidrosis/iontophoresis.html