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好酸球性胃腸炎について(備忘録)
好酸球性胃腸炎(Eosinophilic Gastroenteritis: EGE)は、消化管壁への好酸球の異常な浸潤を特徴とする慢性炎症性疾患です。国内の医学的文献に基づき、その疫学、メカニズム、診断、治療法、および予後についてまとめます。
疫学
- 患者数: 日本からの報告が多い疾患であり、成人で数百人、小児で100人あまりの患者がいると推測されています(難病情報センター)。厚生労働省の指定難病にも認定されており、令和元年度の医療受給者証保持者数は830人です。
- 発症年齢: 小児から成人まで幅広い年齢層で発症がみられます。特に新生児期から乳児期の患者は1990年代後半から急増していると考えられています。
- 国際比較: 欧米では好酸球性食道炎(EoE)が多く、EGEは比較的稀である一方、日本ではEGEの報告がEoEよりも多いという特徴があります。
- 病態: 胃、小腸、大腸の粘膜に多数の好酸球が浸潤し、慢性的な炎症が引き起こされ、これにより消化管の正常な機能が障害されます。
- 原因: 原因は明確には解明されていませんが、アレルギー反応が関与していると考えられています。Th2反応を起こしやすい体質の人が食物抗原などに反応し、消化管でIL-5、IL-13、IL-15、eotaxinなどのサイトカインの産生が高まり、好酸球やマスト細胞が活性化されて消化管上皮に障害を起こすアレルギー疾患であるとされています。
- 合併症: 約27%の例で喘息、約46%の例で何らかのアレルギー疾患の合併がみられます。
- 診断基準: 消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐、体重減少、発熱、腹部膨満、イレウス症状など)を認め、かつ消化管の内視鏡組織検査で粘膜内に好酸球主体の炎症細胞浸潤が存在することが必須とされています。厚生労働省の診断基準では、各消化管部位における好酸球数のカットオフ値が示されており、例えば胃では15個/HPF以上、十二指腸では25個/HPF以上などがあります。
- 漿膜下型: 消化管の内腔ではなく外側を中心に炎症が起きる漿膜下型の場合、粘膜には異常がなくても腹水中に多数の好酸球が認められることで診断されます。
- 鑑別: 逆流性食道炎、炎症性腸疾患、悪性腫瘍など、他の多くの疾患を除外することが重要です。特に小児では、好酸球増多をきたす寄生虫感染などの鑑別も必要です。
- ステロイド: 主な治療法は副腎皮質ステロイドの内服です(例: プレドニゾロン20-40mg/日)。しかし、ステロイドは減量に伴い再燃を起こしやすく、長期内服による副作用(骨粗鬆症、糖尿病、中心性肥満など)も問題となることがあります。
- 食事療法: 食物抗原となりやすい食品を除去する除去食や成分栄養食の投与が行われることもありますが、その有効性は一定していません。
- その他の治療: 免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス)、生物学的製剤(抗IL-5、抗IgEなど)、制酸薬(ヒスタミンH2受容体拮抗薬、PPI)、漢方薬、手術療法などが選択肢として挙げられることもあります。
- 国内の現状: 好酸球性食道炎では生物学的製剤(デュピルマブなど)の治験が進んでいますが、EGEに対する効果的な治療法の研究は欧米に比べて遅れています。
- EGEは治療に一時的に反応して軽快するものの、再発・再燃を繰り返しやすい疾患であり、長期的な維持療法が必要となることが多いです。
- 根本的な治療法は確立されておらず、症状が一生続く可能性もあります。特に重症持続型EGEでは、繰り返す嘔吐、腹痛、腹水、血便、頻回下痢などの症状が続き、長期入院や不登校、離職を余儀なくされるなど、QOLが著しく障害されることがあります。