コラム一覧
首が回らない・・・小児の環軸椎回旋位固定について 20250729
小児、特に幼児から学童期にかけて、突然首が傾いたまま動かなくなり、痛みを伴う「環軸椎回旋位固定(かんじくついかいせんいこてい)」という病態がみられることがあります。多くの場合、適切な治療により良好に回復しますが、保護者にとっては非常に心配になる疾患です。
環軸椎回旋位固定とは?
環軸椎回旋位固定は、首の骨である頸椎(けいつい)のうち、第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)の間にある「環軸関節」が、回旋した(ねじれた)状態で固定されてしまう状態を指します。この環軸関節は、首を左右に回す動きの大部分を担っているため、この部分に問題が起こると首の動きが著しく制限されます。
なぜ子供に多いのか?
小児の頸椎は、大人と比べて骨の形状が未熟で、関節を支える靭帯も緩やかです。このため、ささいなきっかけで環軸関節が亜脱臼(ずれかかった状態)を起こしやすく、回旋位固定に至りやすいと考えられています。
主な原因
-
軽微な外傷: 転倒や、スポーツなどで首をひねるなど、軽い衝撃がきっかけとなることがあります。
-
上気道感染症: 咽頭炎や扁桃炎、中耳炎などの喉や耳の炎症が、環軸関節周囲の靭帯の弛緩を引き起こし、発症の誘因となることがあります。これを「グリーゼル症候群」と呼ぶこともあります。
-
原因不明: 明確な原因がわからないまま発症することも少なくありません。
主な症状
-
突然の斜頸(しゃけい): 横を向いて首をかしげたような、特徴的な姿勢(コックロビン様姿勢:コマドリが首をかしげる姿に似ているため)で首が固まります。
-
頸部の痛み: 首を動かそうとすると強い痛みを訴えます。無理に動かそうとすると、子どもは非常に嫌がります。
-
可動域制限: 首を回したり、傾けたりすることがほとんどできなくなります。
診断
診断は、主に以下の方法で行われます。
-
問診・身体所見: 発症の経緯や症状、特徴的な首の傾きを確認します。
-
画像検査:
-
レントゲン撮影: 口を開けた状態で撮影する「開口位撮影」で、環椎と軸椎の位置関係のずれを確認します。
-
CT検査: レントゲンで診断が難しい場合や、より詳細な評価が必要な場合に用いられます。3D-CTでは、立体的に骨の位置関係を把握することができます。
-
治療
治療の基本は、早期に始める保存療法です。
-
保存療法:
-
頸椎カラー固定: まずは頸椎カラー(いわゆる、むち打ちの際に使う首のコルセット)を装着し、首を安静に保ちます。多くは数日から1週間程度で自然に整復され、症状が改善します。
-
入院・牽引療法: 1週間以上経っても改善が見られない場合や、症状が強い場合には、入院して持続的に首を牽引する治療(介達牽引)が行われます。これにより、ゆっくりと関節のずれを矯正していきます。
-
-
手術療法:
保存療法で改善しない慢性的なケースや、再発を繰り返す難治例では、手術が検討されることもあります。手術では、ずれた関節を整復し、再発しないように固定術が行われます。しかし、手術が必要となるケースは比較的まれです。
予後と注意点
多くの場合、早期に適切な治療を開始すれば、予後は良好で、後遺症なく回復します。治療で最も重要なのは、早期診断・早期治療です。お子さんが急に首を痛がり、傾いたまま動かせないような症状が見られた場合は、速やかに整形外科を受診してください。無理に首を動かしたり、マッサージをしたりすることは、症状を悪化させる可能性があるため避けるべきです。