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あなたは蚊に愛される人? 蚊に嫌われる人? 20250805
蚊に刺されやすい人と刺されにくい人の違いは、科学的に複数の研究が進められており、その差を生む要因が明らかになってきています。特に重要なのは、皮膚から発せられる化学物質(匂い)であり、これが蚊の誘引性に最も大きな影響を与えていると考えられています。
以下に、主な研究データを紹介します。
1. 皮膚の匂い(カルボン酸)が最大の要因
近年の研究で最も注目されているのが、皮膚から放出される「カルボン酸」という物質です。
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ロックフェラー大学の研究 (2022年)
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蚊に非常に好かれる人の皮膚ガス(皮膚から放出される化学物質)を分析したところ、特定の種類のカルボン酸の濃度が、蚊に好かれない人に比べて著しく高いことが判明しました。
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研究によると、蚊に刺されやすい人は、そうでない人に比べて100倍以上も蚊を引きつける魅力がある場合もあると報告されています。
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このカルボン酸の分泌量は遺伝的要因が強いと考えられており、食生活や短期的な行動で大きく変わるものではなく、数年間にわたって安定していることも確認されています。これが、生まれつき「蚊に刺されやすい体質」の人がいることの強力な科学的根拠とされています。
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2. 皮膚の常在菌の種類と多様性
人の皮膚には多種多様な常在菌が棲んでおり、汗や皮脂を分解して様々な揮発性物質(匂い)を生成します。この常在菌の構成が人によって異なるため、体臭に個人差が生まれ、蚊の誘引性にも差が出ます。
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ある研究では、足の常在菌の種類が多い人ほど、蚊を引きつけやすい傾向があることが示唆されています。常在菌の種類が多様であるほど、蚊を誘引する様々な匂い物質が生成される可能性が考えられます。
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逆に、特定の種類の細菌(例えば、シュードモナス属細菌など)が優勢な場合は、蚊を寄せ付けにくい体臭になるという報告もあります。
3. 二酸化炭素(CO₂)の排出量
蚊は人間が呼吸で排出する二酸化炭素を遠くからでも感知し、ターゲットを探す手がかりにしています。
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運動後や飲酒後: 新陳代謝が活発になり、呼吸数が増えて二酸化炭素の排出量が増えるため、蚊に発見されやすくなります。
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体格の大きい人: 体表面積が広く、代謝量も多いため、CO₂排出量が多くなる傾向があります。
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妊婦: 妊娠中は体温が高くなり、呼吸量も通常より2割ほど増加するため、蚊に刺されやすくなると言われています。
4. 体温
蚊は温度を感知する能力もあり、体温が高い人や動物を好む傾向があります。運動や飲酒で体温が上がった状態や、もともと平熱が高い人はターゲットになりやすいと考えられます。
5. 血液型
「O型の人は蚊に刺されやすい」という説は広く知られています。
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2004年に発表された日本の研究では、O型の血液に対して蚊がより多く集まるという結果が報告されました。これは、血液型物質が汗や皮膚表面に分泌される「分泌型」の人において、O型の糖鎖構造が蚊にとって魅力的である可能性を示唆するものです。
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しかし、その後の追試や他の研究では、血液型による明確な差は確認できなかったとする報告も複数あり、科学的なコンセンサスは得られていないのが現状です。多くの専門家は、カルボン酸や皮膚常在菌、二酸化炭素といった他の要因の方が、血液型よりもはるかに影響が大きいと考えています。
まとめ
蚊に刺されやすいかどうかの違いは、単一の要因ではなく、複数の要素が複雑に絡み合って決まります。現在の科学的知見では、遺伝的に決まる皮膚のカルボン酸の分泌量が最も決定的な要因であり、それに加えて、皮膚常在菌の構成、二酸化炭素の排出量、体温などが影響していると考えられています。
血液型については関連を示唆する研究もありますが、その影響は限定的か、まだ結論が出ていないというのが実情です。