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小児とヘリコバクター・ピロリ菌 20250901
ヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori)は、主に胃の粘膜に生息する細菌です。成人では胃潰瘍や胃がんの原因となることが知られていますが、小児期に感染することが多く、その臨床像や診断、治療は成人とは異なります。
感染経路と疫学
H. pyloriは、経口感染が主な経路と考えられています。家庭内感染、特に母親から子どもへの感染が重要視されています。また、集団生活や不衛生な環境も感染リスクを高める要因です。衛生状態の改善に伴い、先進国では感染率が低下傾向にありますが、発展途上国では依然として高い感染率を示しています。
小児の臨床像
成人と異なり、小児のH. pylori感染症は無症状であることがほとんどです。しかし、一部の子どもでは、以下のような症状が現れることがあります。
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反復性腹痛:特に上腹部の痛みが繰り返し起こることがあります。
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慢性嘔吐や食欲不振
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貧血:鉄欠乏性貧血の原因となることがあります。
重症化すると、胃・十二指腸潰瘍やマルトリンパ腫などの病態を呈することもありますが、これは稀です。
診断と治療
小児のH. pylori感染の診断は、症状の有無や重症度によって判断されます。一般的には、以下の非侵襲的検査が用いられます。
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尿素呼気試験:特別な薬を飲んでから息を吹きかけ、H. pyloriが産生する酵素の働きを調べます。
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抗体検査:血液や尿、唾液中のH. pyloriに対する抗体を測定します。
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便中抗原検査:便中のH. pylori抗原を検出します。
小児の場合、症状がない限り、積極的に除菌治療を行うことは推奨されていません。治療の適応は、胃・十二指腸潰瘍がある場合や、鉄欠乏性貧血が他の原因で説明できない場合などに限られます。
治療は、通常、2種類の抗菌薬と胃酸分泌抑制剤を1週間から2週間服用する3剤併用療法が一般的です。ただし、薬剤の副作用や耐性菌の問題も考慮して、慎重に進められます。
予後
小児期のH. pylori感染は、除菌治療によって高い確率で根治できます。しかし、再感染のリスクも存在するため、衛生習慣の改善が重要です。また、将来的な胃がんのリスクについては、小児期に感染したとしても、除菌治療がリスクを低減させる可能性があると考えられています。
