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頭部CT検査の危険性について 20250909
小児に対する頭部CT検査の最大の危険性は、放射線被ばくによる将来的ながん発生リスクです。小児は成人に比べて放射線に対する感受性が高く、また平均余命が長いため、放射線による影響が発現する機会が多くなります。
頭部CT検査は、脳出血や骨折といった緊急性の高い病態を迅速に診断するために非常に有用ですが、その一方で放射線被ばくが避けられません。医療機関では、検査のメリット(診断による救命や適切な治療)とデメリット(被ばくリスク)を慎重に比較し、本当にCT検査が必要な場合にのみ実施するという国際的なガイドラインが定められています。
なぜ小児は放射線に敏感なのか?
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細胞分裂が活発: 小児は成長期にあり、体の細胞が活発に分裂しています。この細胞分裂が盛んな時期に放射線を浴びると、遺伝子損傷(DNAの二本鎖切断)が起きやすく、その結果、将来的にがん細胞が発生するリスクが高まると考えられています。
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組織の感受性: 小児の脳組織は成人に比べて放射線に対する感受性が高いとされています。特定の研究では、頭部CTを繰り返し受けることで、脳腫瘍や白血病のリスクがわずかに上昇する可能性が示唆されています。
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被ばく線量: 小児は体格が小さいため、成人と同じ設定でCT検査を行うと、実効線量(全身の放射線被ばく量を評価する指標)が相対的に高くなってしまいます。多くの医療機関では、小児専用の低線量プロトコルを使用し、被ばくを最小限に抑える工夫をしています。
検査を避けるための判断基準
多くの医療機関では、安易なCT検査を避けるために、小児頭部外傷時のCT撮像基準(例: PECARN、CATCH)を参考にしています。
これらのガイドラインでは、軽症の頭部外傷の場合、CT検査をすぐに行うのではなく、経過観察を推奨しています。特に、以下のいずれかの兆候が見られる場合は、CT検査の必要性が低いと判断されます。
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意識が清明である
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嘔吐や頭痛がない
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受傷時の記憶がある
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外傷のエネルギーが低い(例:ごく軽微な転倒)
一方で、意識障害、繰り返す嘔吐、けいれん、高エネルギー外傷、頭蓋骨の陥没骨折などが疑われる場合には、診断的価値がリスクを上回るため、CT検査が強く推奨されます。
医療従事者側の配慮
医療機関では、小児のCT検査における被ばくリスクを低減するために、以下の対策を講じています。
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検査適応の厳密な検討: 本当にCTが必要な病態か、他の検査(超音波、MRIなど放射線を使わない検査)で代用できないかを慎重に判断します。
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低線量撮影プロトコル: 体格や年齢に合わせた専用の撮影条件(線量設定)を用いることで、不要な放射線被ばくを避けます。
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撮影範囲の限定: 診断に必要な最小限の範囲のみを撮影し、被ばくする部位を限定します。
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診断参考レベル(DRL)の遵守: 日本医学放射線学会などが定めるDRLを参考に、各施設が適切な被ばく線量を維持するように努めます。