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コロナが抱える教育問題 20250917
2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症が感染症法上の「5類」に移行したことに伴い、法律上の登校禁止期間の考え方が変更されました。
現在の法律上の登校禁止期間は、学校保健安全法に基づき、以下のとおり定められています。
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発症した後5日を経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過するまで
この期間は学校を休んでも欠席扱いにはなりません。
症状軽快とは、一般的に「解熱剤を使用せずに解熱し、かつ、呼吸器症状(咳やのどの痛みなど)が改善傾向にあること」を指します。
なお、発症日を「0日目」として数えます。例えば、月曜日に発症した場合、5日目にあたる土曜日が経過し、かつ症状が軽快していれば、日曜日に登校可能となります。
また、出席停止期間が終了した後も、発症から10日間はウイルスを排出する可能性があるため、マスクの着用など周りの人への配慮が推奨されています。
発熱しないケースでも、学校保健安全法に基づき、法律上の登校禁止期間は適用されます。
この法律は、発熱の有無にかかわらず、症状の有無に基づいて判断されます。
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症状がある場合(発熱の有無を問わず、咳や喉の痛みなど)
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「発症した日を0日目として、発症から5日が経過し、かつ症状が軽快した日から1日が経過するまで」が登校禁止期間となります。
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ここでいう「症状が軽快」とは、解熱剤を使用せずに解熱し、呼吸器症状が改善傾向にあることを指しますが、発熱がない場合は、その他の呼吸器症状(咳、喉の痛みなど)が軽快していることが判断基準となります。
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無症状の場合
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「検体採取日を0日目として、5日が経過するまで」が登校禁止期間の目安とされています。
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したがって、発熱がなくても、新型コロナウイルス感染症と診断され、咳や喉の痛みなどの症状がある場合は、法律で定められた出席停止期間を遵守する必要があります。
つまり、学校保健安全法に基づき、法律上の登校禁止期間が設けられている以上、個人の判断に委ねられているとはいえ、咳や咽頭痛があれば熱がなくても新型コロナ感染症の可能性があるので医療機関を受診する必要があるということになります。
「発熱はないが咳やのどが痛い」という症状は、新型コロナウイルス特有の症状ではなく、一般的な感冒でもよくあることです。そのため、いちいち病院を受診することは現実的に困難だと思います。さらに、医療機関は「発熱はないが咳やのどが痛い」という患者を全例検査することは医療経済的にも、医療リソース的にも不可能です。「症状があれば登校停止期間の対象になる」という法律の原則は実質的に破綻しているように思います。
つまり、現状のままだと実質的には個人の判断と良識に委ねられているのが実情であり、厳密に運用することは困難と言えます。
もしかしたら、この状況は「法律が破綻している」というよりも、社会がパンデミック初期の「全例検査・隔離」というフェーズから、「個人の良識に基づき、社会経済活動を維持しながら感染症を管理する」という新しいフェーズに移行したことを示しているといえます。
ただ、そうはいっても医療現場としては非常に矛盾を感じています。例えば、「咳やのどの痛み」があっても発熱がないため病院も受診せず普通に登校している児童もいれば、かたや、医療機関を受診して検査したら抗原陽性となって5日間登校できない児もいます。同じ症状でもまじめに対応している児童が欠席扱いで損をしているのが現状です。
この矛盾は、法律が「感染症対策の原則」を定めている一方で、社会全体が「個人の判断に委ねる」という方向に舵を切ったことで、その運用に大きなギャップが生まれたことに起因します。
このギャップが、診断を受けた者と受けない者で、社会的な結果(欠席扱い、学習の遅れなど)に差が生じる不公平を生み出しています。
完璧な解決策は存在しませんが、この矛盾を最小限に抑え、より公平なシステムを構築するためのいくつかの考えられるアプローチを考察してみます。
1. 学校側の対応をより明確に統一する
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方法: 文部科学省や教育委員会が、症状がある場合の対応について、診断の有無にかかわらず、より明確なガイドラインを策定することです。
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具体例:
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「発熱や咳、喉の痛みといった風邪様症状がある場合は、新型コロナウイルスの陽性・陰性にかかわらず、症状が軽快するまで自宅で休むことを推奨する」と明記する。
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この期間は「欠席扱い」とせず、あくまで「出席停止」として、学習支援の体制を整備する。
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メリット: 診断の有無による不公平を解消し、「体調不良時は休む」という文化を定着させることができます。
2. 社会全体で「体調不良時は休む」という文化を醸成する
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方法: 新型コロナウイルスに限らず、風邪などの症状がある場合は、無理に登校・出社しないことを社会全体の規範として定着させることです。
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具体例:
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企業が社員の体調不良時に柔軟な勤務形態(リモートワークなど)を認める。
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学校がオンライン授業や録画授業を整備し、欠席しても学習が遅れないような仕組みを構築する。
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メリット: 診断の有無にかかわらず、感染症拡大リスクを低減し、本人の回復を最優先できます。また、個人の良識に任せるという原則を、より健全な形で運用できるようになります。
3. 診断と登校判断の分離を明確にする
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方法: 医療機関はあくまで「診断と治療」に専念し、学校側は「登校判断」を保護者からの報告に基づき、より柔軟に行うことです。
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具体例: 症状が軽微で、保護者が自宅療養で十分と判断した場合、医療機関の診断がなくても、学校は出席停止措置と見なす、といった運用を確立する。
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メリット: 医療機関の負担を減らし、本当に医療を必要とする患者にリソースを集中させることができます。
ダラダラと長文になって申し訳ありません。医療と教育の現場が抱える問題を提起させていただきました。
現場からは以上です。