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いびきと発達 20250919
小児のいびきと発達に関する研究は、近年注目されており、多くの報告がなされています。特に「小児睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」が、子どもの発達に与える影響について、多くの知見が得られています。
主な研究の知見
1. 脳の発達と認知機能への影響
小児のいびきや睡眠時無呼吸症候群は、夜間の断続的な低酸素状態や睡眠の分断を引き起こします。これにより、成長期にある脳に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
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学習能力・学業成績の低下: 複数の研究を統合した分析では、睡眠時無呼吸が小児の学業成績や認知機能に影響を与えることが示されています。実際に、学業成績が低い子どもに睡眠時無呼吸が見られる割合が高いという報告があります(Gozal D, 1998)。
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ADHD様症状: 小児の睡眠時無呼吸症候群は、成人のような強い眠気ではなく、日中の落ち着きのなさ、多動性、集中力の欠如といった「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」に似た症状を引き起こすことが知られています。
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行動・感情の問題: 攻撃的になったり、感情のコントロールが難しくなったりする傾向も報告されています。
2. 成長への影響
「寝る子は育つ」と言われるように、睡眠と成長ホルモンの分泌には深い関係があります。
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成長ホルモンの分泌阻害: 質の良い深い睡眠がとれないと、成長ホルモンの分泌が阻害され、成長遅延を引き起こす可能性があります。
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顔面骨格の発達不全: 慢性的な口呼吸は、下顎の成長を妨げ、顎が小さくなるなど顔面骨格の発達に影響を与える可能性も指摘されています。これがさらに気道を狭め、いびきや無呼吸を悪化させる悪循環につながることがあります。
いびきの原因と治療が発達に与える影響
小児のいびきの主な原因は、アデノイド(咽頭扁桃)や口蓋扁桃の肥大です。これらが気道を狭め、いびきや睡眠時無呼吸を引き起こします。
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手術による症状改善: アデノイドや扁桃が原因で睡眠時無呼吸が起こっている場合、それらを切除する手術(アデノイド切除術・口蓋扁桃摘出術)は非常に有効な治療法とされています。手術によって睡眠の質が向上することで、日中の行動や集中力、学習能力が改善する研究結果が多数報告されています。
参考文献例
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Gozal D.: "Sleep-disordered breathing and school performance in children." Pediatrics. 1998 Sep; 102(3 Pt 1): 616–20.
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Beebe DW.: "Neurobehavioral morbidity associated with disordered breathing during sleep in children: a comprehensive review." Sleep. 2006 Sep 1; 29(9): 1115–34.
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JOHNS 35巻7号 「小児睡眠呼吸障害と発達障害様症状との関係」
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「小児科」62巻10号 特集 「子どものコモンな微徴候・微症状」
これらの文献は、小児のいびきが単なる「寝相が悪い」といった問題ではなく、発達に影響を及ぼす可能性のある重要な医学的問題であることを示しています。もしお子さんのいびきが気になる場合は、耳鼻咽喉科に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
