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偏食の強い発達障害児のための食事療法 20250920
発達障害のあるお子さんの「偏食」に悩む保護者の方は少なくありません。「特定のものしか食べない」「新しいものを一切受け付けない」といった状況は、栄養バランスの乱れや、食事の時間の親子双方のストレスに繋がりがちです。
1. なぜ偏食が起きやすいのか?
発達障害のあるお子さんの偏食は、単なる「わがまま」ではなく、その特性が大きく関係しています。
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感覚過敏
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味覚・嗅覚: 特定の味や匂いを極端に嫌がる。(例:苦味、酸味、特定のスパイスの香り)
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触覚: 口の中の食感が苦手。(例:ドロドロ、パサパサ、プチプチした食感)
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視覚: 見た目で食べられないと判断する。(例:特定の色、混ざっている料理が苦手)
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こだわりの強さ・同一性の保持
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いつもと同じ手順や見た目でないと受け入れられない特性から、「いつもと同じメーカーの、同じパッケージの、同じ味の食品」しか食べられないことがあります。
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不安の感じやすさ・見通しの立たなさ
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「食べたことがないもの」に対して強い不安を感じます。「これはどんな味がするんだろう?」「安全なのだろうか?」という不安から、口にすることを拒否します。
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2. 家庭でできる食事療法・アプローチ
無理強いは逆効果です。お子さんの特性を理解し、焦らずスモールステップで進めることが大切です。
基本の心構え:食事の時間は「楽しい時間」に
まず目指すのは、「栄養満点の食事」よりも「親子が笑顔でいられる食卓」です。叱ったり、無理やり口に入れたりすることは、食事そのものに嫌なイメージを持たせてしまい、偏食を悪化させる原因になります。
具体的なアプローチ
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スモールステップで焦らない
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ステップ1: 苦手な食材を食卓に「出すだけ」にする。
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ステップ2: お皿の隅に「乗せるだけ」にする。
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ステップ3: 匂いを嗅いだり、フォークで触ったりしてみる。
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ステップ4: 唇に少しだけつけてみる。
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ステップ5: ごく少量(米粒一つ分など)を口に入れてみる。
一口でも食べられたら、たくさん褒めてあげましょう。その日はそこで終わりにして、成功体験を積むことが重要です。
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調理法の工夫
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食感を変える: 苦手な野菜は細かく刻んだり、すりおろしたりして、ハンバーグやカレー、スープなど好きな料理に混ぜ込む。ミキサーにかけてポタージュにするのも有効です。
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見た目を変える: 型抜きを使ったり、好きなキャラクターのピックを刺したりして、見た目を楽しくする。
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味付けを変える: 好きな味(ケチャップ、マヨネーズ、醤油など)を少しだけ使って、食べやすくする。
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「食事の役割分担」を意識する
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親の役割: 栄養バランスを考え、「いつ、どこで、何を」出すかを決める。
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子どもの役割: 出されたものの中から、「食べるか、食べないか、どれくらい食べるか」を決める。
食べなくても、「じゃあ代わりにこれを」と別のものを出すのは避けましょう。「今は食べない」という子どもの選択を尊重しつつ、食事の時間以外は基本的にお茶か水だけにするのがルールです。
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食べ物に関心を持たせる
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一緒に家庭菜園で野菜を育てる。
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スーパーで食材選びを手伝ってもらう。
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簡単な調理(野菜を洗う、混ぜるなど)を一緒に行う。
自分が関わった食材は、興味を持ちやすくなることがあります。
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3. サプリメントの活用について
どうしても栄養の偏りが心配な場合、サプリメントで補うことも一つの方法です。しかし、自己判断で始める前には、必ず知っておくべきことがあります。
大前提:必ず医師や管理栄養士に相談を
サプリメントを始める前には、かかりつけの小児科医や、発達障害に詳しい医師、管理栄養士などの専門家に必ず相談してください。血液検査などで本当に栄養素が不足しているかを確認し、お子さんに合った種類や適切な量を指導してもらうことが不可欠です。
不足しがちな栄養素の例
発達障害のあるお子さんには、以下のような栄養素が不足しやすいと言われています。
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鉄分: 集中力や落ち着きに関係します。
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亜鉛: 味覚を正常に保つ働きがあります。
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マグネシウム: 神経の興奮を抑える働きがあります。
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ビタミンB群: エネルギー代謝や神経伝達物質の合成に必要です。
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オメガ3脂肪酸(DHA・EPA): 脳の発達に重要とされています。
子ども向けの代表的なサプリメント
1. パウダー(粉末)タイプ
料理や飲み物に混ぜやすく、味や匂いが少ない製品が多いため、感覚が敏感なお子さんでも受け入れやすいことがあります。
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sotto(ソット)
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薬剤師が開発した、味や匂いが少ないパウダータイプのサプリメント。鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミン類などが配合されており、普段の食事に混ぜて使えるのが特徴です。
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2. チュアブルタイプ
ラムネのように噛み砕いて食べられるタイプです。
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mogチュアブル(モグチュアブル)
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少食や偏食のお子さん向けに開発されたチュアブルタイプのサプリメント。医療機関で採用されている例もあるようです。
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3. グミタイプ
おやつのような感覚で食べられるため、サプリメントへの抵抗感が強いお子さんでも試しやすいのが特徴です。
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こども食育グミ
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カルシウムやビタミンDなどが配合された、ぶどう味のグミです。
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セノッピー
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カルシウムやビタミンD、乳酸菌などが配合されており、ぶどう味の他にも複数のフレーバーがあります。
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4. やってはいけないNG対応
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無理強いする: 押さえつけて口に入れるなどは、トラウマになる可能性があります。
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叱る・怒る: 食事の時間がプレッシャーになり、食欲がなくなります。
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他の子と比べる: 「〇〇ちゃんは食べられるのに」といった言葉は、自己肯定感を下げてしまいます。
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食べたらご褒美を過度に使う: 「食べないと〇〇させない」といった交換条件は、食事そのものへの関心を育てません。
結語
偏食への対応は、根気のいる長い道のりになることもあります。保護者の方が一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域の保健センター、療育施設の専門家など、相談できる場所を見つけておくことが大切です。
何よりもまずはお子さんの気持ちに寄り添い、「食べられなくても大丈夫」という安心感のある環境で、少しずつ食の世界を広げていきましょう。