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反ワクチン・ワクチン忌避    20250922

コロナ禍以降の新たな潮流

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを経て、日本における反ワクチンやワクチン忌避の動きは、新たな様相を呈しています。単なる副反応への懸念にとどまらず、特定の政治思想やライフスタイルと結びつき、SNSを通じて多様な言説が拡散されています。

 

1. 新型コロナワクチン後遺症を巡る議論

 

パンデミック中に大規模な接種が行われた新型コロナワクチンに関して、現在最も活発に議論されているのが「ワクチン後遺症」です。接種後に長期にわたって続く体調不良を訴える人々が声を上げ、専門外来を設ける医療機関も出てきています。

  • 主な訴え: 倦怠感、ブレインフォグ(思考力・集中力の低下)、頭痛、めまい、線維筋痛症様の痛みなど、症状は多岐にわたります。

  • 言説の拡散: SNS上では、「#ワクチン後遺症」といったハッシュタグと共に、個人の体験談や特定の医師・研究者の見解が盛んに共有されています。中には、ワクチンの成分が原因であると断定するような、科学的根拠が不確かな情報も多く見られます。

  • 公的機関の対応: 厚生労働省などは、接種後の遷延する症状に関する実態調査や研究を進めていますが、現時点ではワクチンとの明確な因果関係の評価は非常に難しいとされています。一方で、予防接種健康被害救済制度の申請・認定件数は、新型コロナワクチンで急増しており、社会的な関心の高さがうかがえます。

 

2. 「シェディング」や「デトックス」といった新たな言説の広がり

 

反ワクチン・ワクチン忌避層の間で、近年特に注目されているのが「シェディング」という概念です。これは、「ワクチン接種者の体から有害な成分(mRNAやスパイクタンパク質など)が放出され、未接種者に悪影響を及ぼす」という主張です。

  • 科学的根拠の欠如: 日本感染症学会など複数の専門機関が、シェディングが起こるという科学的根拠はないとする見解を公式に発表しています。

  • 不安の増幅: しかし、SNSなどを通じて「近くにいるだけで体調が悪くなる」といった体験談として拡散され、人々の不安を煽っています。これに関連し、体内に入ったとされる”毒”を排出するという「ワクチンデトックス」を謳う商品や民間療法も広がりを見せており、注意が必要です。

 

3. HPVワクチンの積極的勧奨再開と接種率の動向

 

子宮頸がん予防のためのHPVワクチンは、過去に副反応報道が過熱した影響で積極的な接種勧奨が差し控えられていましたが、2022年4月から再開されました。

  • キャッチアップ接種: 勧奨が差し控えられていた期間に接種機会を逃した世代(平成9年度~平成18年度生まれの女性)を対象とした「キャッチアップ接種」が2025年3月まで実施されています。

  • 接種率の回復と課題: 勧奨再開後、接種率は回復傾向にありますが、過去の経緯から依然として接種にためらいを持つ人や、情報が届いていない層も存在します。地方自治体や医療機関による丁寧な情報提供が続けられていますが、かつての接種世代に比べると、まだ低い水準にとどまっています。

 

4. 陰謀論や特定の政治・思想との結びつき

 

コロナ禍を経て、ワクチンに関する言説は、単なる健康問題としてではなく、特定の政治思想や価値観と強く結びつく傾向が顕著になりました。

  • 情報源への不信: 政府や大手メディア、製薬会社が発信する情報を「嘘」や「プロパガンダ」とみなし、独自のコミュニティで共有される情報を強く信じる傾向があります。

  • 参政党との関連: 東京大学などの研究では、コロナ禍で新たにワクチンに反対するようになった人々が、特定の政党(例:参政党)への支持を強めた可能性が指摘されています。

 

5. 情報発信の担い手の変化:「こびナビ」の活動終了とその後

 

パンデミック初期において、正確な情報発信の担い手として大きな役割を果たしたのが、専門家有志によるプロジェクト「こびナビ(COV-Navi)」でした。しかし、社会状況の変化に伴い、2023年11月末にその活動を終了しました。

「こびナビ」の終了は、一元的な情報発信の拠点が一つ失われたことを意味します。現在、公的機関や学会、個々の医療・研究者が情報発信を続けていますが、SNS上で氾濫する大量の誤情報やデマに対抗し、必要な情報を的確に届けることが一層難しい課題となっています。

 

結語

 

近年の反ワクチン・ワクチン忌避の動向は、新型コロナワクチン後遺症という新たな争点を生み出し、「シェディング」のような科学的根拠の乏しい言説の拡散や、特定の思想との結びつきを強めているのが特徴です。一方で、HPVワクチンのように、一度失われた信頼を回復し、接種を推進していくことの難しさも浮き彫りになっています。

今後は、個々のワクチンに対する是非だけでなく、背景にある情報リテラシーの問題や、社会全体のコミュニケーションのあり方が問われ続けることになるでしょう。


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