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むずむず脚症候群 20251004
小児のむずむず脚症候群は、大人のものとは少し異なった特徴を持つ、睡眠の質に大きく影響する神経疾患です。夕方から夜にかけて、脚に何とも言えない不快感が現れ、「じっとしていられない」状態になります。
小児のむずむず脚症候群は、決して珍しい病気ではありません。
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有病率: 学童期および思春期の子どもの**約2〜4%**に見られると報告されています。これは、クラスに1人程度はいる計算になります。
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発症年齢: 症状は5〜6歳といった早い時期から現れることがあります。
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遺伝的要因: 大人と同様に家族歴が大きく関与しており、患者の60%以上に家族内発症が見られます。
特徴と症状:子どもならではの表現と見過ごされがちなサイン
中核となる症状は大人と同じですが、子どもは自分の感覚をうまく言葉で表現できないため、見過ごされたり、他の問題と間違われたりすることがあります。
メインの症状
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脚を動かしたくなる強い欲求: 不快な感覚に伴って生じます。
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安静時に悪化: ベッドに入った後や、車で長時間座っている時などに症状が出やすくなります。
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運動で改善: 脚を伸ばしたり、歩き回ったりすると一時的に楽になります。
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夕方〜夜に悪化: 夜間に症状が強くなる日内変動が特徴です。
子どもに特有の表現と行動
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感覚の表現: 「虫が這っているみたい」「足の中がかゆい」「むずむずする」「炭酸の泡がはじける感じ」など、子どもらしい言葉で表現します。
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見過ごされがちなサイン:
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入眠困難: なかなか寝付かれず、ベッドの中で頻繁にゴロゴロと体勢を変える。
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「成長痛」との混同: 夜間に脚の不快感を訴えるため、「成長痛」と間違われやすいですが、成長痛は動かしても改善しない点で異なります。
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ADHD(注意欠如・多動症)との関連: 睡眠不足による日中の集中力低下や多動、衝動性がADHDの症状と似ているため、ADHDと診断されている子どもの中に、むずむず脚症候群が隠れていることがあります。実際に、ADHDの子どもは、そうでない子どもに比べてむずむず脚症候群の有病率が高いとされています。
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治療法:まずは鉄分補給と生活習慣の改善から
小児の治療では、薬物療法よりもまず原因の除去と生活習慣の改善が優先されます。
1. 原因の特定と対処
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鉄欠乏の改善: 小児のむずむず脚症候群の最も一般的な原因は鉄不足です。成長期の子どもは鉄を多く必要とするため、不足しがちです。血液検査で貯蔵鉄を示す「血清フェリチン値」を測定し、50ng/mL未満であれば鉄剤の補充を行います。食事(レバー、赤身肉、ほうれん草など)での鉄分摂取も重要です。
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薬剤の見直し: 風邪薬に含まれる抗ヒスタミン薬や一部の抗うつ薬などが症状を悪化させることがあります。
2. 生活習慣の改善
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睡眠習慣の確立: 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる規則正しい生活を心がけます。
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カフェインの制限: チョコレート、コーラ、お茶などに含まれるカフェインは症状を悪化させる可能性があるため、特に午後は避けるようにします。
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適度な運動: 日中の適度な運動は有効ですが、就寝直前の激しい運動は避けましょう。
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就寝前のケア: 寝る前にぬるめのお風呂に入ったり、脚をマッサージしたりすることで症状が和らぐことがあります。
3. 薬物療法
上記の治療で改善が見られない重症な場合に限り、薬物療法が検討されます。しかし、小児に対する有効性や安全性が確立された薬は限られており、慎重な判断が必要です。
予後:多くは改善が期待できる
小児のむずむず脚症候群の予後は、一般的に良好とされています。
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鉄欠乏が原因の場合、鉄剤の補充によって約8割のケースで症状が改善または消失すると報告されています。効果が現れるまでには3〜4ヶ月かかることもあります。
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症状が軽い場合は、特別な治療をしなくても12歳頃までに自然に治癒していくこともあると言われています。
しかし、一部は成人型へ移行することもあるため、症状が続く場合は専門医(小児神経科医や睡眠専門医)による適切な診断とフォローアップが重要です。
