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キャンピロバクター腸炎 20251008
キャンピロバクター腸炎は、「キャンピロバクター」という細菌によって引き起こされる感染性胃腸炎です。食中毒の原因菌としては、サルモネラ菌と並んで発生件数が多く、特に鶏肉を原因とするケースが多数報告されています。比較的少量の菌でも感染が成立するため、注意が必要な感染症の一つです。
原因と感染経路
キャンピロバクター菌は、鶏、牛、豚などの家畜や、犬、猫などのペットの腸内に生息しています。主な感染経路は以下の通りです。
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加熱不十分な食肉の摂取: 特に鶏肉の刺身やタタキ、加熱が不十分なバーベキューなどが主な原因となります。日本の市場に出回る鶏肉の20~40%がキャンピロバクターに汚染されているというデータもあります。
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二次汚染: 生の鶏肉を扱った手指やまな板、包丁などの調理器具を介して、サラダなど生で食べる食品が汚染されることで感染します。
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汚染された水や牛乳: 殺菌処理が不十分な井戸水や牛乳が原因となることもあります。
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ペットからの感染: キャンピロバクターを保菌している犬や猫などとの過度な接触により感染する場合があります。
症状と潜伏期間
感染してから症状が出るまでの潜伏期間は、通常2~5日とやや長めです。主な症状は以下の通りです。
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下痢: 水様便であることが多いですが、約半数で血便が見られます。
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腹痛: しばしば強い腹痛を伴います。
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発熱: 38℃前後の発熱が見られます。
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その他の症状: 吐き気、嘔吐、頭痛、倦怠感、筋肉痛などが現れることがあります。
多くの場合、これらの症状は1週間程度で自然に回復に向かいます。
小児における特徴
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抵抗力の弱い乳幼児は感染しやすく、家族で同じものを食べても子供だけが発症することがあります。
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血便の頻度が比較的高く、嘔吐は少ない傾向があります。
治療
治療の基本は、脱水を防ぐための水分補給です。
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対症療法: 経口補水液やスポーツドリンクなどで、こまめに水分と電解質を補給することが最も重要です。食事は、お粥など消化の良いものから少しずつ再開します。
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薬物療法:
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整腸剤で腸内環境を整えることがあります。
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自己判断での下痢止め(止痢薬)の使用は、菌の排出を遅らせ症状を長引かせる可能性があるため、推奨されません。
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症状が重い場合や、免疫力が低下している方などには、マクロライド系の抗菌薬(アジスロマイシンなど)が処方されることがあります。
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注意すべき合併症:ギラン・バレー症候群
非常にまれ(感染者の0.1%程度)ですが、キャンピロバクター腸炎の回復後、1~3週間経ってからギラン・バレー症候群という合併症を発症することがあります。これは、免疫系が誤って自身の末梢神経を攻撃してしまう自己免疫疾患で、手足の痺れや麻痺を引き起こします。もし腸炎が治った後に手足に力が入らないなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
家庭でできる予防法
キャンピロバクターは熱に弱いため、適切な対策で感染を防ぐことができます。
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十分な加熱: 食肉、特に鶏肉は中心部までしっかりと火を通しましょう(中心温度75℃以上で1分間以上の加熱が目安)。
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二次汚染の防止:
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生の食肉を扱った後は、石鹸で十分に手を洗いましょう。
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まな板や包丁などの調理器具は、生肉用と野菜用などで使い分けるのが理想です。
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使用後の調理器具は、よく洗浄した後に熱湯消毒するとより効果的です。
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食品の取り扱い:
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冷蔵庫内では、生の食肉が他の食品に触れないように、容器に入れたりラップで包んだりして保管しましょう。
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適切な知識を持ち、日々の調理や食事で予防策を徹底することが、キャンピロバクター腸炎から身を守る上で最も重要です。
