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睡眠に関連する近視のメカニズム 20251015
睡眠に関連する視力障害(近視)の問題について、近年多くの研究が報告されています。しかし、まだ明確に証明できているわけではないようです。
睡眠に関連する近視のメカニズムについて有力な説をご紹介します。
1. 概日リズム(サーカディアンリズム)の乱れ 🧬
私たちの体には、約24時間周期の体内時計(概日リズム)が備わっています。眼球の長さ(眼軸長)もこのリズムに従って、日中にわずかに伸び、夜間に縮むという変動を繰り返しています。
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メカニズム: 睡眠不足や夜更かし、夜間の強い光(スマートフォンなど)は、この概日リズムを乱します。リズムが乱れると、眼軸長の変動バランスが崩れ、夜間の縮みが不十分になり、結果として眼軸長が伸びたまま固定され、近視が進行するのではないかと考えられています。
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関連論文: 複数の研究で、睡眠パターンが乱れている子供は眼軸長の日内変動に異常が見られることが報告されています。
2. ドーパミンとメラトニンの分泌異常 🧠
ドーパミンとメラトニンは、概日リズムを調節する重要な神経伝達物質です。
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ドーパミン: 網膜で産生され、眼軸長が伸びすぎるのを抑制する働きがあります。ドーパミンは主に日中の明るい光によって分泌が促進されます。
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メラトニン: 睡眠を促すホルモンで、夜間に分泌されます。
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メカニズム: 夜更かしや睡眠不足は、ドーパミンとメラトニンの正常な分泌リズムを乱します。特に、夜間に光を浴びることでメラトニンの分泌が抑制され、相対的にドーパミンの働きも低下する可能性があります。これにより、眼軸長の伸長を抑える力が弱まり、近視が進みやすくなると考えられています。
3. 調節機能への影響と血流の変化 👀
睡眠不足は、目のピント調節機能(調節機能)や網膜の血流にも影響を与える可能性があります。
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メカニズム:
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調節機能の疲労: 睡眠不足は、目の筋肉の回復を妨げ、ピント調節機能の緊張状態が続きやすくなります(偽近視や調節痙攣)。この状態が長く続くと、本当の近視(軸性近視)に移行するリスクが高まる可能性があります。
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網膜の血流低下: ある研究では、睡眠不足が網膜の微小血管に影響を与え、特に眼軸長が長い強度近視の目でその影響が大きいことが示唆されています。血流の変化が近視の進行に関与している可能性が考えられます。
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睡眠と近視の関連については、多くの研究がなされており、特にシステマティックレビュー(複数の研究をまとめて分析したもの)をご紹介します。
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"Effects of Insufficient Sleep on Myopia in Children: A Systematic Review and Meta-Analysis" (2024)
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子供の不十分な睡眠が近視の有病率増加と関連していることを示したメタアナリシス(複数の研究データを統計的に統合・分析した研究)。特に、睡眠時間が短いほど眼軸長の伸長が速いことを報告しています。
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"Myopia and sleep in children—a systematic review" (2023)
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子供の近視と睡眠の関連について、睡眠時間、質、タイミング、効率の4つの側面から既存の研究をレビューした論文。近視管理において睡眠衛生の教育を推奨していますが、さらなる研究が必要であるとも述べています。
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"The Role of Sleep in Childhood Myopia" (Review of Myopia Management)
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睡眠不足、質の低下、就寝時刻の遅れなどが近視と関連していることを指摘し、その背景にある概日リズムやメラトニンとの関係を解説しています。
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これらの研究は、睡眠が近視の進行を抑制するための**「修正可能なリスク因子」**である可能性を示唆しています。つまり、遺伝などと違って、生活習慣の改善によってコントロールできる可能性があるということです。
結論として、睡眠障害が直接的に近視を引き起こすというよりは、概日リズムの乱れやホルモンバランスの異常などを介して、眼軸長の伸長を促進してしまうというのが、現在の医学的な見解です。
