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熱性けいれん 20251024
熱性けいれん(熱性発作)は、乳幼児期(多くは生後6か月から5歳頃)に、38℃以上の発熱に伴って起こるけいれん発作のことです。日本では非常に多く、子どもの約7〜11%が経験するとされています。
1. 単純型熱性けいれん(最も多いタイプ)
以下の特徴を持つ、**予後が良好(良性)**なけいれんです。
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けいれんの持続時間が15分未満(通常は数分以内)。
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発作の形が左右対称(全身性)である。
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発熱の期間中(24時間以内)に1回しか起こらない。
 
単純型の場合、けいれん自体が脳にダメージを与えたり、将来的に「てんかん」に移行したりする可能性は極めて低いとされています。
2. 複雑型熱性けいれん
以下のいずれかの特徴を持つものです。
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けいれんの持続時間が15分以上(遷延性発作)。
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発作が左右非対称(焦点性)である。
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24時間以内に複数回繰り返す。
 
複雑型の場合は、単純型に比べて将来てんかんを発症するリスクがやや高まるため、必要に応じて専門医による検査(脳波など)が検討されます。
ダイアップ坐薬による予防法(ガイドライン)
ダイアップ坐薬(一般名:ジアゼパム)は、けいれんを止めるためではなく、**熱性けいれんの「再発を予防する」**ために使用される薬です。
「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」では、熱性けいれんを起こしたすべての子どもに推奨されるわけではありません。その適応は、以下のような「けいれんの再発リスクが高い」と考えられる場合に限定されるのが一般的です。
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適応の目安:
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過去に15分以上続く遷延性発作を起こしたことがある。
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熱性けいれんを短期間に複数回(例:2回以上)繰り返している。
 
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ガイドラインに基づく標準的な使い方
ダイアップ坐薬の予防投与は、けいれんが起こりやすい「発熱初期の24時間」をカバーするように設計されています。
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1回目の投与:
体温が**37.5℃**を超えた時点(または発熱に気づいた時点)で、できるだけ速やかに1回分(医師の指示通りの量)を挿入します。
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2回目の投与:
1回目の投与から8時間後に、まだ38℃以上の発熱が続いている場合に、同量を追加挿入します。
 
【重要な注意点:解熱剤(坐薬)との併用】
アルフェン、アンヒバ、カロナールなどの解熱剤の坐薬をダイアップ坐薬と同時に使うと、ダイアップの吸収が悪くなり、効果が弱まる可能性があります。
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ダイアップ坐薬を先に使用し、30分以上間隔をあけてから解熱剤の坐薬を使用してください。
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(飲み薬の解熱剤であれば、同時に使用しても問題ありません。)
 
近年ダイアップ予防が推奨されない傾向の理由
かつては熱性けいれんを一度起こすと比較的広くダイアップ坐薬が処方されていましたが、近年のガイドライン(特に2015年版以降)では、その使用を**限定的(ルーチンでは使用しない)**にする傾向が強まっています。
その最大の理由は、**「予防のデメリットが、メリットを上回る可能性がある」**と判断されるようになったためです。
1. 重篤な病気(脳炎・脳症)の発見の遅れ
ダイアップ坐薬の主な副作用は**「眠気(鎮静)」「ふらつき」**です。
熱性けいれんと症状が似ていて、緊急の対応が必要な病気に「急性脳炎・脳症」や「髄膜炎」があります。これらの病気は、けいれんだけでなく「意識障害(ぐったりして呼びかけに反応しない)」を伴います。
もしダイアップ坐薬を使用していると、その**副作用(眠気)**なのか、脳炎・脳症による意識障害なのか、区別がつきにくくなります。
「ダイアップを使ったから眠いのだろう」と様子を見ているうちに、重篤な脳炎・脳症の発見や治療開始が遅れてしまうリスクが懸念されます。
2. 単純型熱性けいれんの「良性」であること
前述の通り、ほとんどの熱性けいれん(単純型)は良性であり、後遺症を残しません。
「重篤な脳炎・脳症を見逃すリスク」を冒してまで、「良性で数分で止まるけいれん」を積極的に予防する必要はないのではないか、という考え方が主流となりました。
まとめ
このため、現在の医療現場では、
「けいれんは怖いが、ほとんどは数分で止まる良性のもの」
「それよりも、万が一の脳炎・脳症のサイン(意識障害)を見逃さないことが最重要」
という考えに基づき、ダイアップの予防投与は「15分以上止まらなかった経験がある」など、リスクの高い場合に限定して慎重に行う方針となっています。
この動画は、今回の回答の根拠となっている「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」について詳しく解説しています。
		
		