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成長ホルモン分泌不全症(Growth Hormone Deficiency: GHD) 20251025
疫学(発生頻度)
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小児: GHDによる低身長の頻度は、報告によって幅がありますが、約4,000人〜1万人に1人程度とされています。日本の学童期(6~17歳)の調査では、1万人あたり男児2.14人、女児0.71人と、男児にやや多い傾向があります。
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成人: 日本における成人GHDの患者数は約36,000人と推測されており、毎年新たに約1,140人が発症していると考えられています。
 
原因
成長ホルモン(GH)は、脳の下垂体(かすいたい)という部分から分泌されます。GHDは、この下垂体または、その上位で分泌を調節している視床下部(ししょうかぶ)の障害によって引き起こされます。
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小児期発症の原因:
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特発性(とっぱつせい): 原因が特定できない場合が最も多いです。
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先天性(せんてんせい): 生まれつきの要因。
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遺伝子異常(成長ホルモンや下垂体機能に関連する遺伝子の変異)
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脳の構造的異常(中隔視神経異形成症、下垂体茎遮断症候群など)
 
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後天性(こうてんせい): 出生後の要因。
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脳腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫など)やその治療(手術、放射線照射)
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頭部外傷
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中枢神経系の感染症(髄膜炎など)
 
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成人期発症の原因:
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下垂体またはその周辺の腫瘍: 下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)が最も多い原因です。
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腫瘍の治療: 手術や放射線治療による下垂体機能の低下。
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その他の原因: 頭部外傷、出産時の大量出血(シーハン症候群)、自己免疫疾患(下垂体炎)、感染症など。
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小児期発症GHDの持続: 小児期にGHDと診断された人が、成人になってもGHDが持続している場合。
 
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自然経過(治療しない場合)
成長ホルモンは、小児期には「身長を伸ばす」働きが主ですが、成人では「体の新陳代謝を調節する」という生涯にわたる重要な役割を持っています。
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小児の場合:
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低身長: 最大の特徴です。年齢相応の身長の伸びがみられず、成長曲線から大きく外れていきます。
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その他の身体的特徴: 幼い顔つき、ぽっちゃりした体型(内臓脂肪の蓄積)、細かい毛髪などがみられることがあります。
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低血糖: 特に乳幼児期に低血糖発作を起こすことがあります。
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思春期の遅れ: 他の下垂体ホルモン(性腺刺激ホルモンなど)の分泌も不足している場合に起こります。
 
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成人の場合(または未治療で成人した場合):
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体組成の変化: 筋肉量が減少し、体脂肪(特に内臓脂肪)が増加します。
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代謝異常: 脂質異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪の増加)が起こりやすくなります。
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骨の脆弱化: 骨密度が低下し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や骨折のリスクが高まります。
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心血管系リスク: 動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが上昇する可能性があります。
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QOL(生活の質)の低下: 疲れやすい、気力・体力の低下、集中力の欠如、気分の落ち込み(うつ傾向)など、精神面にも影響が出ることがあります。
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その他: 皮膚の乾燥、発汗の減少などがみられます。
 
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治療法
不足している成長ホルモンを補充する**「成長ホルモン補充療法」**が標準的な治療です。
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使用する薬剤: 遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤
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投与方法: 患者さん自身またはご家族が、1日1回(または週に数回)、自宅で皮下注射を行います。ペン型の注射器が用いられることが多く、手技は比較的簡単です。
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投与量:
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小児: 主に体重に基づいて投与量を決定します。成長の度合いや血液検査の結果(IGF-I値など)を見ながら、定期的に投与量を調整します。
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成人: 安全性を考慮し、非常に少ない量から開始します。副作用(むくみ、関節痛など)の有無や血液検査(IGF-I値)をモニタリングしながら、数ヶ月かけてその人に合った維持量まで徐々に増量していきます。
 
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予後(治療後の経過)
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小児の場合:
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身長の改善: 早期に診断され、治療を継続することで、身長の伸びが改善し、多くの場合は最終的に正常範囲の成人身長に到達することが可能です。
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治療期間: 骨の成長がほぼ停止する(骨端線が閉鎖する)思春期終了ごろまで(目安として骨年齢が男子16歳、女子14歳頃)治療を継続します。
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成人期への移行: 治療終了後、再検査(成長ホルモン分泌刺激試験)を行い、成人になってもGHDが持続しているか(成人GHDに移行するか)を評価します。原因不明(特発性)だった場合、成人になるとGHDが改善していることも少なくありません。
 
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成人の場合:
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症状の改善: 治療を継続することで、筋肉量の増加、体脂肪の減少、骨密度の改善、脂質代謝の正常化、QOL(体力や気力)の向上などが期待できます。
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効果の発現: 身長の伸びと異なり、体組成や体調の改善効果はゆっくりと現れ、実感できるまでに数ヶ月〜半年以上かかることもあります。
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治療期間: 多くの場合、治療は長期間、あるいは生涯にわたって必要となります。定期的に通院し、効果や副作用をチェックしながら治療を継続します。適切な用量管理のもとであれば、安全性は比較的高い治療法とされています。
 
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