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ロキソニンとインフルエンザ脳症 20251101
インフルエンザによる発熱に対してNSAIDs(特にジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸など、過去にインフルエンザ脳症患者で予後不良例が多いとの報告があった薬剤)の使用は、病態を悪化させる可能性や、予後不良例が多いとする疫学研究があることから、原則として推奨されていません。このため、インフルエンザによる発熱にはカロナールやアンヒバ座薬などのアセトアミノフェンの使用が推奨されています。
〇 NSAIDsがインフルエンザで禁忌とされる理由
主な理由は、インフルエンザ脳症の発症や重症化への関与が疑われているためです。
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疫学的な関連の指摘:
一部のNSAIDs(特にジクロフェナクナトリウムなど)をインフルエンザの解熱目的で使用した患者、特に小児で、インフルエンザ脳症の予後が悪化する傾向を示す複数の疫学研究が報告されました。
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病態悪化の可能性:
インフルエンザ脳症は、脳の血管に障害が見られることが特徴的です。NSAIDsの持つ薬理作用(全身の血管系への影響など)と脳症の特徴的な病理所見を考え合わせると、病態の悪化に関与している可能性が指摘されています。
 
これらの報告を受け、特定の薬剤だけでなく、すべてのNSAIDsについてインフルエンザによる発熱への使用は避けることが、小児を中心としたインフルエンザ治療の標準的な指針となっています。
〇 インフルエンザ脳症について
インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルス感染をきっかけとして発症する急性脳症で、主に急激な意識障害とけいれんなどの神経症状を呈する、非常に重篤な疾患です。
1. 概要と疫学
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発症: インフルエンザ感染後、発熱から数時間~1日以内という極めて短期間で急激に発症することが多いです。
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好発年齢: 報告の大部分は1~5歳の乳幼児ですが、近年は学童期や成人、高齢者での報告も増えています。
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重篤性: 死亡率が高く(約10%程度)、生存しても重度の神経学的後遺症(知能障害、運動障害、てんかんなど)を残すことが少なくありません。
 
2. 病態
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非炎症性脳浮腫: 「脳炎」とは異なり、脳脊髄液に炎症細胞の増加は見られないことが多いです。インフルエンザウイルスが脳の血管内皮細胞に感染することで、サイトカインなどの炎症性物質が過剰に産生され(サイトカイン・ストーム)、これにより脳全体の腫れ(脳浮腫)や、全身の血管の障害が起こることが主要な病態と考えられています。
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急性壊死性脳症(ANE): インフルエンザ脳症の一つの病型であり、特に予後が悪いことで知られています。
 
3. 主な症状
発熱に続いて、以下のような神経症状が急速に進行します。
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意識障害: 軽度の意識の混濁、傾眠(眠りがちになる)から、昏睡まで進むことがあります。周囲への反応が鈍くなったり、呼びかけに応じられなくなったりします。
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けいれん: 全身性のけいれんが多く、持続時間が長く、頻繁に繰り返されることもあります。
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異常行動:
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意味不明な言動を発する、ろれつが回らない
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急に怒り出す、泣き出す、大声で歌い出すなどの感情の激しい変化
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幻視・幻覚(「アニメのキャラクターが見える」など)
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両親などが正しく認識できない
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食べ物と食べ物でないものを区別できない(例:自分の手を噛む)
 
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これらの症状は、インフルエンザ脳症の初期症状である場合があるため、発熱中の異常行動や意識障害には特に注意が必要です。熱性けいれんや熱せん妄との区別が難しいこともありますが、症状が持続したり、悪化したりする場合は、ただちに医療機関を受診する必要があります。
		
		