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稗粒腫 20251127
1. 稗粒腫とは
稗粒腫は、皮膚の極めて浅い部分(表皮直下)に生じる、直径1〜2mm程度の**角質が入った袋状の良性腫瘍(嚢腫)**です。
一般的に「脂肪の塊」と誤解されることが多いですが、実際には皮脂ではなく、皮膚の代謝産物である「角質(ケラチン)」が貯留したものです。
2. 分類と原因
発生機序により、大きく「原発性」と「続発性」に分類されます。
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原発性稗粒腫(Primary milia)
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自然発生的に生じるタイプです。
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新生児: 鼻や頬などに非常に高頻度(約40-50%)で見られます。これは未熟な皮脂腺や毛包の開口部が閉塞するために起こります。
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成人: 主に顔面(特に眼瞼周囲、頬、額)に好発します。軟毛包の漏斗部由来と考えられています。
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続発性稗粒腫(Secondary milia)
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皮膚への何らかのダメージの治癒過程で生じます。
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原因: 水疱性疾患(表皮水疱症、晩発性皮膚ポルフィリン症など)、熱傷、外傷、擦過傷(デルマブラージョンなど)、またはステロイド外用剤やNSAIDs外用剤の長期連用など。
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これらは主にエクリン汗管由来であることが多いとされています。
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3. 臨床所見
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外観: 直径1〜2mmの半球状に隆起した小丘疹。色は白色〜黄白色(真珠様)です。
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性状: 触れると硬く、表面は平滑です。ニキビ(面皰)とは異なり、毛穴の開口部が見られないため、圧迫しても内容物は容易には排出されません。
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自覚症状: 疼痛や掻痒感はなく、無症状です。主に美容的な問題となります。
4. 鑑別疾患
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汗管腫(Syringoma):
眼瞼周囲(特に下眼瞼)に好発する、肌色〜淡褐色の扁平な丘疹です。稗粒腫よりもやや深く、内容物が透けて見えないため白色調ではありません。癒合して大きくなることがあります。
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閉鎖面皰(Closed comedo / 白ニキビ):
尋常性ざ瘡の初期段階です。毛包一致性で、圧出すると角栓だけでなく皮脂も排出されます。周囲に炎症性皮疹を伴うことが多いです。
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青年性扁平疣贅(Verruca plana):
ヒトパピローマウイルス(HPV)による感染症です。表面が平坦な、淡褐色〜肌色の丘疹です。線状に配列する(ケブネル現象)ことがあり、拡大してみると表面がやや粗造です。
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眼瞼黄色腫(Xanthelasma):
上眼瞼内側に好発する、黄色調の平坦な隆起(プラーク)です。脂質代謝異常を伴うことがありますが、稗粒腫のような「粒状」の硬さはありません。
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伝染性軟属腫(Molluscum contagiosum / 水イボ):
中心に臍窩(へこみ)がある、光沢のあるドーム状丘疹です。小児に多く、稗粒腫よりやや大きく、柔らかいのが特徴です。
5. 検査・診断
通常は視診のみで診断が可能です。
拡大鏡(ダーモスコピー)を用いると、境界明瞭な均一な白色〜黄白色の球状構造(white/yellow structureless area)が観察され、診断の補助となります。
6. 治療法
良性腫瘍であるため、医学的に切除の必要性はありませんが、美容的な要望がある場合に行われます。なお、新生児の稗粒腫は生後数週間〜数ヶ月で自然消失するため、通常は治療を行わず経過観察します。
成人の場合や自然消失しない場合の治療:
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圧出法(Extraction):
最も一般的な治療法です。注射針(23G〜26G程度)やメスの先端で皮膚表面に小さな切開を加え、面皰圧子(コメドプッシャー)等を用いて内容物(角質塊)を押し出します。
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メリット: 傷跡がほとんど残らず、即効性がある。
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デメリット: 再発することがある。
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炭酸ガス(CO2)レーザー:
レーザーで皮膚に微細な穴を開け、内容物を除去、あるいは嚢腫壁ごと蒸散させます。
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メリット: 出血が少なく、多数個を一度に処理しやすい。
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デメリット: 施術後の赤みが数日続く場合がある。
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外用療法(限定的):
アダパレン(ディフェリン)やトレチノインなどのレチノイド外用薬が、皮膚のターンオーバーを促進し排出を促す目的で使用されることがありますが、即効性はなく、確実な消失効果は外科的処置に劣ります。
院長コメント
小児期の稗粒腫は特に治療しないことが多いため、あまり突っ込んだ知識を持っていなかったのですが、成人の稗粒腫を調べると意外と悩んでいる人が多く、治療法も確立した多くの手段があって勉強になりました。皮膚科の先生宜しくお願いします。
