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中学生のハムストリング痛 20251128
運動部の中学生の患者様に最近、このテーマでよく質問を受けます。今回は、特に急激な身長の伸びが見られる中学生の時期の患者さんにおけるハムストリングのトラブルについてまとめました。
1. なぜ中学生に多いのか?(成長期の特殊性)
中学生のハムストリング痛の背景には、この時期特有の「成長のアンバランス」があります。これを患者さんに理解してもらうことが治療の第一歩です。
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骨・筋長不一致:
第2次性徴期(Growth Spurt)では、骨が急速に伸びますが、筋肉や腱の柔軟性の獲得はそれに追いつきません。その結果、ハムストリングは常に「ピンと張った弓の弦」のような過緊張状態にあります。
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骨端線の脆弱性:
大人のように「筋腱移行部」が損傷するだけでなく、中学生ではまだ軟骨成分が残る「骨付着部(坐骨結節)」が構造的なウィークポイントとなります。
2. 鑑別疾患
「太ももの裏が痛い」という主訴に対し、中学生では大きく2つの病態を区別する必要があります。
A. ハムストリング肉離れ(筋損傷)
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好発部位: 大腿二頭筋長頭の筋腱移行部(太ももの中央〜上部)。
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受傷機転: ダッシュやジャンプ着地時など、急激なエキセントリック(遠心性)収縮がかかった瞬間に「バチッ」という衝撃と共に発生。
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特徴: 圧痛、ストレッチ痛、ひどい場合は皮下出血斑。
B. 坐骨結節骨端症 / 剥離骨折(Ischial Apophysitis / Avulsion)
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【重要】中学生特有の「落とし穴」:
ただの肉離れだと思って安静にしていても、「お尻の付け根(座った時に当たる骨)」の痛みが長引く場合はこれを疑います。
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病態: 強い牽引力により、ハムストリングの付着部である坐骨結節の成長軟骨が炎症を起こす(骨端症)、あるいは剥がれてしまう(剥離骨折)。
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症状: * ダッシュ時だけでなく、**「椅子に座っていると痛い」「前屈でお尻の骨が痛い」**という訴えが特徴的です。
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単純レントゲンで坐骨結節の不整像や剥離骨片を確認する必要があります。
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3. 治療とリハビリテーションのステップ
中学生アスリートは「早く復帰したい」と焦る傾向にありますが、再発率が高い部位であるため、段階的な復帰が不可欠です。
Phase 1: 急性期(受傷直後〜数日)
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基本: RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)。
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禁忌: 無理なストレッチは厳禁です。損傷部を無理に伸ばすと出血や損傷が悪化します。
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アドバイス: 「痛くない範囲で歩くのはOKだが、足を引きずるようなら松葉杖」が目安です。
Phase 2: 亜急性期(痛みが引いてきたら)
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温熱療法: 血流を改善し、組織修復を促します。
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等尺性収縮(Isometric): 膝を曲げる力を、動きを伴わずに入れます(例:仰向けで踵を床に押し付ける)。
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動的ストレッチ: 反動をつけず、痛みが出ない範囲で可動域を広げます。
Phase 3: 回復・強化期(復帰に向けて)
ここでのトレーニング不足が再発の最大要因です。特にエキセントリック(遠心性)収縮の強化がエビデンスレベルで推奨されています。
推奨エクササイズ:ノルディック・ハムストリング
膝立ちになり、パートナーに足首を押さえてもらう。
体幹を一直線に保ったまま、ゆっくりと体を前に倒していく。
ハムストリングで耐えながら倒れ、最後は手をつく。
※負荷が高いため、最初は浅い角度から開始させてください。
4.予防のポイント
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「骨が伸びる時期は、体は硬くなる」と知る
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身長が伸びている今は、体が硬くなって当たり前。だからこそ、人一倍ストレッチが必要。
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クラムシェルなどの臀部強化
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ハムストリングだけで走ろうとすると負担がかかります。お尻(大殿筋・中殿筋)を使えるようにすることで負荷を分散させます。
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復帰のサイン
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「全力でダッシュしても痛くない」「押しても痛くない」「健側と同じくらい柔軟性が戻った」の3つが揃うまでは、試合形式の練習は我慢。
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