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0歳児のRSウイルス感染症を予防しましょう 20251202
2歳までのほぼ100%罹患するRSウイルス感染症。生涯のうちに何回も感染しますが、初感染が最も重症になりやすいとされています。
現在、季節性インフルエンザが流行中しているためなのか、RSウイルスの流行はずいぶん抑えられています。インフルエンザの流行がそのうち下火になると、次はRSウイルスの番です(小児科界隈では以前から、インフルとRSは同時に共存しないという都市伝説が存在します)。
今回は0歳児のRSウイルス対策についてまとめました。
1. 0歳児におけるRSウイルスとインフルエンザの重症化率比較
「重症化」を「入院を要する状態」または「呼吸管理を要する状態」と定義した場合、0歳児(特に生後半年未満)ではRSVのリスクが顕著に高くなります。
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入院率の比較(海外および国内データより)
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生後3か月未満: RSVによる入院率はインフルエンザの約5〜6倍と報告されています(RSV:約18人/1000人 vs インフルエンザ:約3人/1000人)。
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0歳全体: インフルエンザは高熱による痙攣や脳症のリスクがあるものの、RSVは細気管支炎による呼吸不全(酸素投与や人工呼吸管理が必要な状態)に陥る頻度が非常に高いのが特徴です。
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呼吸管理の必要性(国内データ)
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厚生労働省等の資料によると、RSVで入院した1歳未満児のうち、約10%前後が人工呼吸器管理(挿管またはNPPV)を必要としたという報告があります。インフルエンザ入院例において、呼吸不全で人工呼吸管理に至るケースはこれよりも低率です。
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結論: 0歳児において、RSVはインフルエンザに比べ「呼吸器系としての重症度(酸素需要、呼吸仕事量)」が格段に高く、医療負荷が大きい疾患です。
2. RSウイルス入院患児の月齢別統計
RSVによる入院は生後1〜2か月にピークがあります。
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疫学データ:
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国内のレセプトデータやサーベイランスにおいて、入院患者数の分布は生後1か月、2か月が最も多く、次いで生後0か月、3か月と続きます。生後6か月を過ぎると入院率は徐々に低下します。
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なぜこの時期に多いのか:
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解剖学的要因: この時期の乳児は気道が非常に細く、わずかな浮腫や分泌物で容易に閉塞・無気肺を起こします。
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免疫の空白: 母体からの移行抗体(経胎盤IgG)は存在しますが、RSVに対する中和抗体価は個人差が大きく、かつ生後減衰していくため、感染防御に十分でないケースが多いです。また、自身の免疫系は未熟です。
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シナジスの対象外: 早産児や基礎疾患児以外(正期産健常児)は、パリビズマブ(シナジス)の投与対象とならないため、無防備な状態で流行期を迎えます。
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3. 母子免疫ワクチン「アブリスボ」による予防
この「生後数か月以内の重症化ピーク」を防ぐための新しいツールが、組換えRSウイルスワクチン「アブリスボ(Abrysvo)」です。2024年に日本でも発売され、大きな注目を集めています。
アブリスボ(母子免疫)
これは赤ちゃんに打つのではなく、妊婦さんに接種するワクチンです。
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メカニズム:
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妊婦の体内で作られた高濃度のRSV中和抗体(IgG)が、胎盤を通じて胎児に移行します。
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これにより、赤ちゃんは生まれた瞬間から高い抗体価を持った状態でスタートでき、最もリスクの高い生後6か月頃までの期間を守ることができます。
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接種対象・時期:
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対象: 妊婦
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接種期間: 妊娠24週〜36週(推奨は妊娠28週〜36週)
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※早すぎると抗体移行期間が短くなる可能性、遅すぎると出産までに抗体移行が間に合わない可能性があるため、28-36週が至適とされています。
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有効性(MATISSE試験データ):
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生後90日以内の重度のRSV下気道疾患(入院や酸素投与が必要なレベル)を約82%予防する効果が示されました。
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生後180日以内でも約69%の予防効果が維持されました。
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まとめ
0歳児、特に生後1〜2か月の乳児にとって、RSウイルスはインフルエンザ以上に「入院・呼吸管理」に直結するハイリスクな感染症です。この「一番弱い時期」を守るために、従来のシナジス(ハイリスク児向け)に加え、全ての赤ちゃんを守りうるアブリスボ(母子免疫)が登場したことは、小児医療における大きなパラダイムシフトと言えます。
