コラム一覧
副耳 20251206
副耳(ふくじ)とは
副耳は、生まれつき耳の穴の手前(顔側)や頬にできる、イボのような突起物です。片側にできることもあれば、両側にできることもあります。頻度は出生1,000人あたり15人程度(約1.5%)と言われており、比較的よく見られる先天異常の一つです。
多くの場合、皮膚だけの柔らかいものではなく、中に「軟骨」が含まれているのが特徴です。この軟骨は、深い部分で本来の耳の軟骨とつながっていることもあります。
1. 原因
副耳が発生する原因は、胎児期の発生過程における異常によるものです。
発生学的背景
妊娠4週〜8週頃、胎児の顔や首が形成される際、「鰓弓(さいきゅう)」と呼ばれるヒダのような構造が融合して耳が作られます。具体的には、第一鰓弓と第二鰓弓という部分が複雑に合わさって耳の形(耳介)が形成されます。この融合の過程で、何らかの理由により本来吸収されるべき組織が残ったり、過剰に形成されたりすることで副耳が生じます。
遺伝性について
突発的に発生することがほとんどで、明確な遺伝性は少ないとされています。また、妊娠中の母親の行動や食べたものなどが原因ではありません。
ただし、ゴールデンハー症候群(第一第二鰓弓症候群)など、耳の形成不全や顔面の非対称を伴う疾患の一部として副耳が見られる場合もあります。
2. 治療法
副耳の治療は基本的に切除ですが、内部に軟骨があるかどうかによってアプローチが異なります。
結紮法(けっさつほう:糸で縛る方法)
-
対象: 茎部(根元)が細く、内部に軟骨が含まれていない小さな副耳。
-
方法: 根元を糸で強く縛り、血流を遮断して壊死・脱落させます(「へその緒」が取れるのと同じ原理です)。
-
現状: 以前は新生児期に行われることがありましたが、現在はあまり推奨されません。理由は、軟骨が残っていると縛った後にしこりが残ったり、皮膚が余って「乳頭状」の突起が残ったりして、整容面(見た目の美しさ)で不満が残るケースが多いためです。
外科的切除術(形成外科手術)
-
対象: 軟骨を含む副耳、またはきれいに治したい場合(現在の主流)。
-
方法: 皮膚を切開し、突起部分だけでなく、皮下の深い部分に入り込んでいる軟骨の根元まで剥離して切除します。その後、傷跡が目立たないように丁寧に縫合します。
-
メリット: 軟骨を根元から処理できるため、再発やしこりが残るリスクが極めて低く、仕上がりが自然できれいです。
3. 治療時期
治療を行う時期は、「麻酔の方法(全身麻酔か局所麻酔か)」と「本人の意識・社会性」によって判断が分かれます。緊急性はないため、親御さんと医師で相談して決定します。
乳幼児期(0歳〜1歳頃)
-
麻酔: 全身麻酔が必要です。
-
特徴: じっとしていられないため、手術室での全身麻酔管理となります。全身麻酔のリスクを考慮し、体重が増え、体力がつく生後6ヶ月〜1歳以降に行う施設が多いです。
-
メリット: 物心がつく前に治療を終えられるため、本人の記憶に残らず、手術への恐怖心を与えずに済みます。
就学前(5歳〜6歳頃)
-
麻酔: 基本的には全身麻酔ですが、非常に協力的であれば局所麻酔で可能な場合もあります(稀です)。
-
特徴: 小学校入学前に治療を済ませることで、集団生活でのからかい等の心理的負担を避けるために選ばれることが多い時期です。
学童期以降(小学生高学年〜大人)
-
麻酔: 局所麻酔(日帰り手術)が可能です。
-
特徴: 本人が手術中に動かず耐えられるようになれば、外来での局所麻酔手術が可能になります。
-
メリット: 入院の必要がなく、身体的負担も経済的負担も軽くなります。本人が「気になり始めた時」が手術のタイミングとなります。
4. 治療しなかった場合のデメリット
副耳は良性の腫瘍(奇形)であり、放置しても悪性化(ガン化)することはありません。また、聴力に影響を与えることも通常はありません。そのため、医学的に「絶対に切除しなければならない」ものではありませんが、以下のようなデメリットが考えられます。
美容的・心理的な問題
これが最も大きな理由となります。
-
外見のコンプレックス: 成長とともに本人が鏡を見て気にしたり、左右非対称であることを悩んだりする場合があります。
-
いじめ・からかい: 集団生活(特に小学校など)において、耳元の突起について他人から指摘されたり、心ない言葉をかけられたりする原因になることがあります。
物理的・機能的な問題
日常生活で邪魔になるケースです。
-
引っかかり: タオルで顔を拭くとき、衣服の脱ぎ着、髪をとかすときなどに副耳が引っかかることがあります。
-
装用具の妨げ: マスクの紐、眼鏡、イヤホンやヘッドホンをする際に、副耳の位置や大きさによっては邪魔になったり、当たって痛みを伴ったりすることがあります。
-
皮膚トラブル: 根元がくびれている形状の場合、その隙間に垢や汗がたまりやすく、不潔になり湿疹や炎症を起こすことがあります。
