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アトピー性皮膚炎の治療戦略 20251210
小児のアトピー性皮膚炎治療は、従来の「ステロイド外用薬と保湿」に加え、病態生理(炎症サイトカインやJAK経路など)に基づいた新しい薬剤が登場し、選択肢が大幅に広がっています。
1. 外用剤(非ステロイド薬)
これらはステロイドのような皮膚萎縮などの副作用が少なく、寛解維持期や、ステロイドを使用したくない部位(顔・首など)の治療における重要な選択肢となっています。
■ デルゴシチニブ(商品名:コレクチム軟膏)
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤です。
【特徴】
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適応年齢: 生後6か月から使用可能です。
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作用機序: 免疫細胞内のJAK経路をブロックし、炎症性サイトカインの産生を抑えます。
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使用感: ステロイド外用薬特有の皮膚萎縮や毛細血管拡張の副作用がありません。
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部位: 顔面や頚部など、ステロイドの吸収率が高く副作用が出やすい部位にも長期的に使いやすい薬剤です。
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その他: プロアクティブ療法(再燃予防)にも適しています。
【デメリット・注意点】
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効果の発現: ステロイドのストロングクラスと同程度と言われますが、重度の炎症を急速に抑える力はステロイドに劣る場合があります。
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副作用: 使用部位にニキビ(毛包炎)やカポジ水痘様発疹症などの感染症が生じることがあります(免疫を抑えるため)。
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刺激: 比較的少ないですが、塗布時に刺激感を感じる場合があります。
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使用量制限: 1回の塗布量に上限(小児は体重による制限)が設定されています。
■ ディファミラスト(商品名:モイゼルト軟膏)
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤です。
【特徴】
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適応年齢: 生後3か月から使用可能です(非常に低年齢から使えるのが特徴です)。
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作用機序: 細胞内のcAMP濃度を上昇させ、炎症性サイトカインの産生を抑制します。
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使用感: 油性基剤を使用しており、保湿効果も兼ね備えています。皮膚萎縮の副作用がありません。
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濃度: 小児用には濃度の低い0.3%製剤から開始できます。
【デメリット・注意点】
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刺激感: 塗布直後に「ピリピリする」「熱くなる」といった刺激感や痛みが出ることが比較的多く報告されています。これが継続困難な理由になることがあります(継続することで軽減する場合もあります)。
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効果: 劇的な抗炎症作用というよりは、バリア機能を整えながら穏やかに炎症を抑える位置づけに近い場合があります。
2. 注射製剤(生物学的製剤)
中等症〜重症の難治性アトピー性皮膚炎に対する切り札的な治療法です。
■ デュピルマブ(商品名:デュピクセント)
ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体です。
【特徴】
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適応年齢: 生後6か月から適応が拡大されました(以前は成人・小児のみでしたが乳幼児も可に)。
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作用機序: アレルギー炎症の根幹であるType2炎症を引き起こすIL-4とIL-13の働きを直接ブロックします。
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効果: 皮疹の改善だけでなく、痒みの軽減効果が非常に高いです。ステロイド外用薬の使用量を減らせる、または中止できる可能性があります。
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安全性: 免疫抑制剤ではないため、重篤な感染症リスクは比較的低いとされています。
【デメリット・注意点】
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結膜炎: 比較的頻度の高い副作用として、アレルギー性結膜炎(目の赤み・痒み)が報告されています。
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疼痛: 皮下注射であるため、特に小児では痛みが負担になることがあります。
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コスト: 非常に高価であり、高額療養費制度や子供医療費助成制度の活用が前提となるケースが多いです。
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通院・手技: 定期的な通院、または保護者による自己注射の習得が必要です。
■ ネモリズマブ(商品名:ミチーガ)
ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体です。
【特徴】
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適応年齢: 6歳以上から使用可能です(以前は13歳以上)。
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作用機序: 「痒み」を誘発するサイトカインであるIL-31をブロックします。
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特化点: 特に「痒み」を止める効果に優れており、掻き壊しによる悪循環(イッチ・スクラッチ・サイクル)を断ち切ることを主目的とします。
【デメリット・注意点】
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炎症への作用: 痒みは止めますが、皮膚の炎症そのものを抑える効果は限定的です。そのため、ステロイド外用薬などの抗炎症治療の併用が必須です。
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副作用: アトピー性皮膚炎の増悪(顔面の赤みなど)や、注射部位反応が見られることがあります。
3. 内服薬(JAK阻害薬)
主に12歳以上の中等症〜重症例に使用される、強力な全身療法です。
■ ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)、アブロシチニブ(商品名:サイバインコ)など
経口JAK阻害剤です。
【特徴】
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適応年齢: 12歳以上(かつ体重制限などを満たす場合)。
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作用機序: 複数の炎症経路(JAK1など)を強力にブロックします。
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即効性: デュピクセントと比較しても、痒み止め効果の発現が非常に早く(数日〜1週間程度)、皮膚所見の改善も早いです。
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利便性: 注射ではなく飲み薬であるため、針への恐怖心が強い患児(思春期)に受け入れられやすいです。
【デメリット・注意点】
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全身副作用: 免疫を広く抑制するため、帯状疱疹や重篤な感染症のリスクがあります。
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検査: 貧血、肝機能障害、脂質異常症などのリスクがあるため、定期的な採血によるモニタリングが必須です。
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ニキビ: 副作用としてニキビができやすくなることがあります。
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催奇形性: 妊娠中の使用は禁忌であるため、性活動のある年齢層の女子には十分な指導が必要です。
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その他: 悪性腫瘍や血栓症のリスクについて、長期的な安全性はまだ確認され続けている段階です。
まとめと今後の対応
現在では、これらを組み合わせて「まずは外用剤でコントロールし、難治であれば早期に注射や内服へステップアップして、子供のQOL(睡眠障害の改善や学業への集中)を守る」という治療戦略が主流になりつつあります。
当院では、昨年からデュピクセントで治療を始めた患者様が11名になりました。すべての患者様が劇的に改善しており、その効果のほどは絶大です。
しかし、デュピクセントは注射薬なので毎回苦痛を伴います。この点が小児の場合、ハードルを高くしてので、内服薬・外用剤をうまく組み合わせながら個別の治療戦略を考える必要があります。
