コラム一覧
斜視 20251215
1. 斜視の分類
斜視は、眼の位置ずれの方向や性質によって分類されます。
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方向による分類
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内斜視: 黒目が内側(鼻側)に寄っている状態。
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乳児内斜視: 生後6ヶ月以内に発症。手術が必要なことが多い。
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調節性内斜視: 遠視が原因で起こる。眼鏡で矯正できることが多い。
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外斜視: 黒目が外側(耳側)にずれる状態。日本人の子供に比較的多く見られます。
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上下斜視: 黒目が上または下にずれる状態。
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性質による分類
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恒常性斜視: 常に眼がずれている状態。
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間歇性(かんけつせい)斜視: 時々ずれるが、正常な位置に戻ることもある状態。
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2. 間歇性斜視と一般的な(恒常性)斜視の違い
この区別は、治療方針を決める上で非常に重要です。
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間歇性外斜視(Intermittent Exotropia)
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特徴: 眠い時、疲れた時、ぼーっとしている時、あるいは風邪をひいた時などに眼が外側に外れますが、普段は両眼で物を見ることができます。
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視機能: 普段は両眼の視線が合っているため、両眼視機能(立体感など)や視力は保たれていることが多いです。
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経過: 急いで手術をする必要がないケースも多いですが、ズレている時間が長くなると、恒常性へと移行するリスクがあります。
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恒常性斜視
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特徴: 常に眼がずれています。
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リスク: 常にずれているため、脳がずれている方の眼からの情報を無視(抑制)しようとし、弱視や両眼視機能の欠如につながるリスクが高いです。
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3. 斜視を放置した場合のリスクと弱視との関連
「様子を見ましょう」と言われることもありますが、適切な管理下でない放置は以下のリスクを伴います。
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弱視(Amblyopia)への進展
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眼はずれていると、物が二重に見える(複視)はずですが、子供の脳は適応力が高いため、ずれている眼の映像を脳が「消去(抑制)」してしまいます。これを使わなくなった眼の視力が発達せず、眼鏡をかけても視力が出ない「弱視」になります。
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両眼視機能(立体視)の喪失
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両目で同時に物を見て、遠近感や立体感を感じる機能が育ちません。これは一度成長期(およそ6〜8歳頃まで)を逃すと、後から獲得するのが極めて困難です。
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頭位異常(Ocular Torticollis)
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眼のズレを補正して物を見ようとして、首を傾けたり顔を回したりする癖がつき、骨格への影響が出ることがあります。
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4. 斜視の治療法
原因とタイプによって異なります。
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屈折矯正(眼鏡・コンタクト)
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特に「調節性内斜視」では、遠視の眼鏡をかけるだけで眼の位置が治ることがあります。これが第一選択となるケースは多いです。
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視能訓練(アイパッチなど)
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弱視がある場合、良い方の眼を隠して(アイパッチ)、悪い方の眼を強制的に使わせて視力を育てます。
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プリズム眼鏡
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光の屈折を変えるレンズを使い、見かけ上の像の位置をずらして両眼視を助けます。
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手術療法
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眼球を動かす筋肉(外眼筋)の位置をずらしたり、長さを調整したりして、眼の位置を物理的に正します。
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5. 手術のリスク・再発率・予後
手術は全身麻酔(小児の場合)で行われるのが一般的です。
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予後:
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視力や両眼視機能の予後は、**「発症年齢」と「治療開始時期」**に依存します。早期発見・早期治療であるほど良好です。
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再発率(戻り):
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斜視手術は「一度やれば一生完璧」とは限らないのが難しい点です。特に外斜視の場合、術後に数年かけて再び外に外れていく(再発する)傾向があり、20〜30%程度の再発率(または追加手術の必要性)があるとも言われます。
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逆に、内斜視の手術後に外斜視になってしまうこと(過矯正)もあります。
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手術リスク:
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全身麻酔のリスク、感染症(稀)、過矯正・低矯正(狙った位置よりズレが残る、あるいは逆に行く)などがあります。
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6. 外見による偏見や精神的な問題(Psychosocial Aspects)
医学的な機能回復と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視されるのが「心」の問題です。
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コミュニケーションの阻害
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「どこを見ているかわからない」と言われたり、視線が合わないことで相手に不安感を与えたりすることが、対人関係のストレスになることがあります。
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自己肯定感への影響
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学童期以降になると、学校でのいじめやからかいの対象になることがあります。ある研究では、斜視のある子供はそうでない子供に比べ、社会的な不安を感じやすく、自己肯定感が低い傾向にあることが報告されています。
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手術適応の社会的要因
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機能的(視力・立体視)には手術が必須でなくても、本人が外見を気にしている、あるいは学校での人間関係に支障が出ている場合は、精神的な健康のために手術を行うことが十分な理由となります。
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子供の斜視は、単に「見た目のズレ」を治すだけでなく、**「一生涯の視機能を守る」ことと、「子供の心の発達を守る」**ことの両面からアプローチする必要があります。
