コラム一覧
麦粒腫(ばくりゅうしゅ)と霰粒腫(さんりゅうしゅ) 20251216
1. 麦粒腫(ばくりゅうしゅ)
一般的に「ものもらい」や「めばちこ」と呼ばれる疾患です。
【病態と原因】
まぶたにある脂や汗を分泌する腺に、細菌が感染して起こる「急性化膿性炎症」です。
感染する場所によって以下の2つに分類されます。
-
外麦粒腫: まつ毛の毛根にある脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)への感染。
-
内麦粒腫: まぶたの裏側にあるマイボーム腺への感染。
原因菌の多くは、皮膚の常在菌である「黄色ブドウ球菌」です。不潔な手で目をこするなどして感染することが一般的です。
【疫学と好発年齢】
特定の好発年齢はなく、乳幼児から成人まで全年齢層で見られます。小児の場合、手洗いが不十分であったり、目を触る癖があったりするため、反復して発症することがあります。季節性は特にありません。
【症状】
急性炎症の4徴候(発赤、腫脹、疼痛、熱感)がはっきり現れます。
-
まぶたの一部が赤く腫れ、ズキズキとした痛みや痒みを伴います。
-
進行すると腫れが強くなり、膿点(白い膿の点)が出現します。
-
自然に破裂して排膿すると、痛みは急速に軽減し治癒に向かいます。
【治療法】
基本的には抗菌薬による薬物療法が中心です。
-
点眼薬・眼軟膏: ニューキノロン系やセフェム系などの抗菌点眼薬や眼軟膏を使用します。
-
内服薬: 腫れや痛みが強い場合、または内麦粒腫の場合は、抗菌薬の内服(セフェム系やマクロライド系など)を併用します。
-
切開排膿: 化膿が進んで膿が溜まっている場合は、針やメスで小切開を加えて排膿することもありますが、小児の場合は保存的治療(薬物療法)で軽快することが多いです。
2. 霰粒腫(さんりゅうしゅ)
麦粒腫と似ていますが、病態が全く異なります。
【病態と原因】
まぶたの縁にある「マイボーム腺」の出口が詰まり、分泌されるはずの脂が中に溜まってしまうことで起こる「慢性肉芽腫性炎症」です。
麦粒腫とは異なり、基本的には細菌感染によるものではありません(ただし、二次的に感染を起こすと「急性霰粒腫」となり、麦粒腫様の痛みや赤みを伴います)。
【疫学と好発年齢】
乳幼児から高齢者まで幅広く発症します。小児でも比較的多く見られます。体質的にマイボーム腺が詰まりやすい子の場合、多発したり再発を繰り返したりすることがあります。
【症状】
-
まぶたの中にコロコロとした硬いしこり(腫瘤)を触れます。
-
通常、痛みや赤みはありません(無痛性)。
-
腫瘤が大きくなると、まぶたの皮膚が薄くなり、内容物が透けて見えたり、皮膚側に破れたりすることもあります。
【治療法】
炎症(感染)がない限り、抗菌薬は無効であるため、治療方針が麦粒腫とは異なります。
-
経過観察: 小児の小さな霰粒腫は、自然に吸収されて消失することも多いため、まずは経過観察を行うことが一般的です。
-
温罨法(おんあんぽう): 蒸しタオルなどでまぶたを温め、詰まった脂の排出を促すケアを行います。
-
点眼薬・眼軟膏: 二次感染の予防や、多少の炎症がある場合には、ステロイド点眼や抗菌点眼を使用することがあります。
-
手術(摘出術): しこりが大きく自然吸収が見込めない場合や、整容的に問題がある場合は、切開して内容物を摘出します。ただし、小児の場合は局所麻酔での手術が困難なことが多く(暴れて危険なため)、全身麻酔が必要になるケースがあるため、手術適応は慎重に判断されます。
鑑別のポイント
小児のまぶたが腫れた場合、最も分かりやすい違いは「痛みの有無」です。
-
痛がって赤く腫れている → 麦粒腫(細菌感染)の可能性が高い。抗菌薬が効きます。
-
痛くないが、しこりがある → 霰粒腫(脂の詰まり)の可能性が高い。即効性のある薬はなく、長期戦(経過観察)になることが多いです。
※ただし、霰粒腫に細菌感染が加わった「化膿性霰粒腫(急性霰粒腫)」の場合は、麦粒腫と同様に赤く腫れて痛むため、初期の鑑別が難しいことがあります。
