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チック(Tic Disorders) 20251225
1. 種類と分類
チックは、突発的、急速、反復的、非律動的な運動(運動チック)または発声(音声チック)と定義されます。これらは単純なものから複雑なものまで多岐にわたり、持続期間によって診断分類が異なります。
症状による分類
運動チック
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単純運動チック: まばたき(最多)、首を振る、肩をすくめる、顔をしかめる、鼻を動かすなど。短時間で無意味な動作です。
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複雑運動チック: 飛び跳ねる、自分を叩く、他人の動作を真似る、特定の順序で物に触る、卑猥なジェスチャーをする(汚言動作)など。よりゆっくりで、意図的な動作に見えることがあります。
音声チック
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単純音声チック: 咳払い(最多)、鼻すすり、叫び声、「アッ」「ウッ」などの短い発声。
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複雑音声チック: 単語やフレーズを繰り返す、他人の言葉を繰り返す(反響言語)、社会的に受け入れられない卑猥な言葉を言う(汚言症)など。
持続期間と組み合わせによる診断分類(DSM-5)
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暫定的チック症(旧:一過性チック障害): 運動および/または音声チックが1年以上持続しないもの。
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持続性(慢性)運動または音声チック症: 運動または音声チックのいずれか一方のみが存在し、1年以上持続するもの。
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トゥレット症候群(Tourette's Disorder): 複数の運動チックと、1つ以上の音声チックの両方が存在し、1年以上持続するもの(同時に出現する必要はない)。
2. 疫学
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有病率: 小児期においてチックは非常に一般的です。一過性のものを含めると、全児童の10〜20%(あるいはそれ以上)が何らかのチックを経験すると言われています。トゥレット症候群の有病率は0.3〜0.8%程度と推定されています。
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発症年齢: 典型的には4〜6歳頃に発症します。
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性差: 男児は女児の3〜4倍多く見られます。
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経過: 症状は増悪と寛解を繰り返しながら推移します。10〜12歳頃にピーク(重症化)を迎え、思春期後半から成人期にかけて自然に軽快・消失することが多いです(成人になっても症状が残るのは約3分の1程度)。
3. 成因
原因は完全に解明されていませんが、以下の要因が複合的に関与していると考えられています。親のしつけや愛情不足が原因ではありません。
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神経生物学的要因: 大脳基底核を含む神経回路(皮質-線条体-視床-皮質回路:CSTCループ)の機能異常が想定されています。特に神経伝達物質であるドパミンの過剰活動や受容体の過敏性が関与している説が有力です。
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遺伝的要因: 高い遺伝率が確認されていますが、単一の遺伝子ではなく、多因子遺伝と考えられています。
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環境要因: 心理的なストレス、疲労、興奮などが症状の増悪因子(トリガー)となりますが、これら自体が根本的な原因ではありません。
4. 合併症
チック症の患児は、チックそのものよりも併存症によって社会生活上の困難さを感じることが多く、注意が必要です。
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ADHD(注意欠如・多動症): 最も頻度の高い合併症で、トゥレット症候群の30〜60%に見られます。
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OCD(強迫症): トゥレット症候群の30〜50%に見られます。「左右対称でないと気が済まない」「確認しないと気が済まない」などの症状が出ます。
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その他: 睡眠障害、学習障害(LD)、不安症、抑うつ、自傷行為、怒りの爆発(Rage attack)など。
5. 治療法
治療の第一歩は、本人と家族への心理教育です。必ずしも薬物療法が第一選択ではありません。
心理教育・環境調整
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「チックはわざとやっているわけではない」「脳の信号の誤作動である」ことを本人、家族、学校関係者が理解することが重要です。
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症状の指摘や叱責は逆効果であることを伝えます。
行動療法
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包括的チック行動療法(CBIT): チックが出る前の予兆(前駆衝動:ムズムズ感など)に気づかせ、チックと拮抗する動作(拮抗反応:例えば首振りに対して顎を引くなど)を行うハビット・リバーサル(習慣逆転法)を中心とした治療法です。エビデンスレベルは高いですが、日本で実施できる施設は限られています。
薬物療法
生活に著しい支障がある場合(身体的苦痛、登校渋り、自尊心の低下など)に検討されます。
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ドパミン受容体拮抗薬(抗精神病薬): アリピプラゾール(エビリファイ)が第一選択としてよく用いられます。リスペリドン(リスパダール)、ハロペリドール(リトリン)なども使用されますが、副作用(錐体外路症状、鎮静、体重増加など)への注意が必要です。
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α2アドレナリン受容体作動薬: クロニジン(カタプレス)やグアンファシン(インチュニブ)が用いられます。特にADHDを合併している場合、インチュニブはADHD治療薬としても認可されているため有用な選択肢となります。
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漢方薬: 抑肝散、甘麦大棗湯などが補助的に用いられることがあります。
6. 対処方法(家族・学校へのアドバイス)
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指摘しない・気にしない(スルーする):
最も基本的かつ重要な対応です。「やめなさい」「またやってる」と指摘することは、患児に緊張とストレスを与え、ドパミンの活動を高めて症状を悪化させる悪循環(チックの強化)を招きます。
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意図的な無視(Active Ignoring):
チック症状に対しては反応せず、普段通りの生活を送ります。一方で、チックが出ていない時の良い行動には注目し、肯定的な関わりを持ちます。
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前駆衝動の理解:
多くの患児はチックが出る直前に「ムズムズする」「ピリピリする」といった不快な身体感覚(前駆衝動)を感じています。チックをすることは、その不快感を解消するための動作であることを周囲が理解する必要があります。
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環境調整:
緊張する場面や興奮する場面でチックは出やすくなります。リラックスできる時間や場所を確保し、ストレスを減らす工夫をします。また、テレビやゲーム中に出ることも多いですが、本人が楽しんでいるなら無理に止めさせる必要はありません。
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学校との連携:
教師やクラスメートの理解を得ることが重要です。「わざとではない」「うつらない」「無視するのが一番の薬」であることを説明し、いじめの対象にならないよう配慮を求めます。座席の配慮や、症状がひどい時に避難できる場所(保健室など)の確保も有効です。
