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色覚異常(先天赤緑色覚異常) 20251226
1. 小児における発見方法と検査
低年齢児(3歳~就学前)は、自覚検査が難しいため、「行動観察」と「問診(親からの情報)」、そして**「幼児向け検査キット」**の活用が鍵となります。
A. 家庭や診察室での観察ポイント(問診の手がかり)
保護者から以下のようなエピソードがないか聴取します。ただし、幼児期は色名の言い間違いも多いため、単発ではなく**「一貫した傾向」**があるかが重要です。
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色の識別ミス: 赤と緑、茶と緑、ピンクと灰色、青と紫などを混同する。
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塗り絵: 空を紫、人の顔を緑、木の幹を赤で塗るなど、独特な色の使い方をする(※感性の場合もあるため、明度だけで選んでいないか確認)。
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探索の困難: 緑の葉の中にある赤い木の実や花、芝生の上に落ちた赤いボールなどを見つけるのが苦手。
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肉の焼き加減: 焼肉などで、生焼けの肉と焼けた肉の区別がつかない。
B. 幼児でも可能な検査ツール
仮性同色表(石原表)は成人では標準的な検査法ですが、数字の知識が必要なため、幼児には以下のものが用いられます。
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松原氏 幼児色覚検査表: 数字ではなく動物や花などのシルエットを用いたもの。日本国内で最も広く使われている幼児用の簡易スクリーニングキットです。
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CVTME (Color Vision Testing Made Easy): 「○」「☆」「犬」などの単純な図形を用いた、石原表の幼児版。海外ではこれが主流で、ワゴナー(Waggoner)色覚検査表とも呼ばれています。
C. 確定診断へのアプローチ
小児科外来で疑いを持った場合は、眼科専門医への紹介が原則です。
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確定診断にはアノマロスコープが必要ですが、通常、検査に協力できる年齢(小学校低学年以降)になるまで待つこともあります。
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就学前に「色覚特性があるかもしれない」と親が認識し、学校生活での配慮(チョークの色など)を準備することが重要です。
2. 疫学(Epidemiology)
日本人における先天赤緑色覚異常の頻度は以下の通りです。
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男性: 約 5%(20人に1人)
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女性: 約 0.2%(500人に1人)
クラスに男子が20人いれば1人はいる計算になり、決して珍しいものではありません。欧米白人男性では約8%とさらに頻度が高いことが知られています。
3. 成因と分類(Etiology)
先天赤緑色覚異常は、X染色体上にある視物質遺伝子の欠損や変異によるX連鎖劣性遺伝です。
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メカニズム: 網膜の錐体細胞(L錐体:赤、M錐体:緑、S錐体:青)のうち、LまたはM錐体の機能不全または欠損によります。
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分類:
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1型色覚(旧称:第1色覚異常 / Protan): L錐体(赤)の異常。赤色が暗く感じられるのが特徴。
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2型色覚(旧称:第2色覚異常 / Deutan): M錐体(緑)の異常。最も頻度が高い。
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※3型(青色)は非常に稀で、後天性のことが多いです。
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4. 治療法(Treatment)
現時点において、先天色覚異常を根本的に治癒させる医学的な治療法(手術や薬物療法)は存在しません。
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遺伝子治療: 研究段階ではありますが、現時点で臨床応用には至っていません。
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補正レンズ: 特定の波長をカットする眼鏡(色覚補正メガネ)が存在しますが、これは「正常な色覚に戻す」ものではなく、「色のコントラストを変えて区別しやすくする(明度差をつける)」ものです。
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注意点: 成長期に常用すると、本来の色情報の学習を妨げる可能性があるため、日本眼科学会などは小児への積極的な推奨には慎重な立場をとっています。
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5. 訓練方法と対策(Management & Training)
「訓練すれば治る」という科学的根拠はありません。したがって、対応の主軸は「治療」ではなく**「学習支援」と「環境調整(カラーユニバーサルデザイン)」**になります。
A. 幼児期・学童期の対策(本人の対処スキル)
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色以外の情報の活用: 信号機は「色」ではなく「位置(右が赤など)」で覚える。充電ランプなどは「点灯・点滅」や「明るさ」で判断する習慣をつける。
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色のラベリング: クレヨン、絵の具、色鉛筆、靴下などに色の名前を書いておく。
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周囲への伝達: 必要に応じて「自分は赤と緑の区別がつきにくい」と周囲に伝えるスキル(セルフアドボカシー)を育てる。
B. 学校・家庭での環境調整
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黒板: 赤いチョークは黒板上では黒く沈んで見えにくいため、黄色や特殊な「色覚チョーク(朱赤)」の使用を学校へ依頼する。
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教材: グラフや地図は色分けだけでなく、ハッチング(斜線や網掛け)や境界線を用いたものを選ぶ。
6. 予後と社会生活(Prognosis)
A. 視機能の予後
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先天赤緑色覚異常は進行しません。
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視力(Visual Acuity)や視野は通常、良好です(全色盲などを除く)。
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他の眼疾患のリスクが増加することはありません。
B. 進路・職業選択
かつては多くの制限がありましたが、現在は大きく緩和されています。
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制限がある職業: 航空機のパイロット、鉄道の運転士、一部の船舶職員、警察官・消防官の一部業務など、色の識別が人命に直結する職種。
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医師・医療職: 医師免許取得に制限はありません。ただし、皮膚の発疹の赤み、顔色、内視鏡画像、顕微鏡下の染色などの判別で苦労する場合があるため、自分なりの判断基準(質感や形態など)を習得する必要があります。
小児の色覚異常は「病気」というよりは**「遺伝的な特性(体質)」**と捉えることが重要です。多くの場合は日常生活に大きな支障はなく、工夫次第で問題なく過ごせます。適切な時期(就学前後)に眼科での評価を受けるようにしましょう。
