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インフルエンザワクチンの集団接種(懐かしいなあ) 20260925
私(院長)がこどもの頃は、毎年、学校でインフルエンザの予防接種を行っていました。今では、学校での集団接種という習慣がなくなりましたので、あの光景は時代を感じさせる一つの思い出として脳裏に刻まれています。若い人は想像がつかないでしょうね。
日本では1962年から小中学校でのインフルエンザ集団接種(学校接種)が始まり、1976年には予防接種法に基づく義務的接種として制度化されました。しかし、1994年の予防接種法改正によって小児の定期接種から除外され、任意接種へと移行しました。なぜ小児の定期接種(集団接種)は行われなくなったのでしょうか。調べてみると意外なことが分かりました。
当時の学校集団接種は「子どもに打つことで学校内の流行を止め、社会全体の流行を防ぐ(集団免疫)」という目的を掲げていました。しかし、1980年代に前橋市医師会がまとめた調査(いわゆる前橋レポート)などで「ワクチンを接種しても学校内の学級閉鎖や罹患率は大きく変わらないのではないか」という指摘がなされ、感染そのものを完全に防ぐ効果への懐疑論が社会的に広がりました。
このワクチンは重症化を予防することに目的があり、流行を防止することが目的ではないということが前提にあります。つまり、集団接種しても、流行はそれほど防止できないという結論でした。
さらに、今では考えられないことですが、集団接種に伴う強い副反応(高熱、けいれん、ショックなど)や、皮下注射・針の使い回し等をめぐる安全性の問題、それに伴う国の賠償責任を問う集団訴訟が相次ぎました。これにより「健康な子どもに義務的に接種させること」への反発が当時、強まりました。このため、厚労省(当時厚生省)はおじけづいたというのが本音だと思います。
小児の学級閉鎖や脳症のリスクを背景に、日本小児科学会などを中心に「小児への公費助成・定期接種化」を求める声は今も上がっています。しかし、国の審議会(厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会)で定期接種化(A類疾病化)が進まない背景には、いくつかの高いハードルがあります。
予防接種法上の「A類疾病(麻疹、風疹、ポリオなど)」に指定される基準は、高い確率で感染・発症を防ぎ、社会全体の流行を抑え込む効果があることです。しかし、インフルエンザワクチンは変異の頻度が高く、流行株との一致度や個人の免疫状態によって有効率が大きく変動します。重症化(脳症や入院)を減らす効果は明確に確認されているものの、「学級閉鎖を起こさないほど集団感染を強力に遮断する」レベルの有効性を毎年安定して担保することは難しいため、一律の義務的接種(努力義務)とする根拠に議論が残ります。
また、多くの定期接種ワクチンは生涯で数回の接種で済みますが、インフルエンザは毎年の接種が必要です。全国の小児を一斉に定期接種対象とすると、毎秋〜冬の短期間に莫大なワクチン需要が集中し、安定供給が逼迫する懸念があります。毎年公費(国や自治体の税金)を投入し続ける医療経済学的な費用対効果について、現行の高齢者B類接種や他の新規導入ワクチンとの優先順位が問われます。つまり、費用対効果の面で考えるとインフルエンザの定期接種は優先順位が低いという認識なのです。国レベルの定期接種にはなっていませんが、多くの市区町村が少子化対策や子育て支援策の一環として、自治体独自の予算で小児インフルエンザ接種費用の助成(一部補助または全額無償化)を実施しています。全国一律の法的義務化を伴わずに自治体裁量で接種率向上が図られている実態も、国主導の定期化の議論が進みにくい要因の一つになっています。
現在、点鼻型の生ワクチン(フルミスト)など新しい選択肢も登場しており、小児の接種負担軽減や粘膜免疫による感染予防効果への期待は続いています。ただし、制度として全国一律の「定期接種」に組み込むためには、安定した感染阻止エビデンス、毎年の供給体制、そして公費負担に見合う費用対効果の検証が依然として求められているのが現状です。
